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第0回 ミクロ経済学を学ぶにあたって

 このコラムでは、ミクロ経済学に関する理論をコツコツ書いていきます。

 ミクロ経済学の内容をきわめて大きく括ると、「市場の理論」の部と、「生産の理論」の部と、「消費の理論」の部に分かれます。

 このほかに、標準的なミクロ経済学のテキストをみると、「市場の失敗論」や「国際経済理論」や「ゲームの理論」や「情報の経済理論」などが書かれています。これらは、先に述べた主要な3部門の修正や補完の理論ともいえます。

 ここでは、ミクロ経済学の理論に入る前に、ミクロ経済学の学び方や取り組み方について、簡単に書いてみます。

 コラムのはじめとして、ありそうな質問に答える形で、思いつくことを書いてみます。

 第一のありそうな質問は、「ミクロ経済学は役に立っているのですか」というものです。

 あまりにもそっけない答えは、すべての学問は、なんらかの有用性があるので存在しているはずなので、なんらかの役にはたっているでしょうという回答です。これでは、いわゆるオウム返しで、これこそ意味のないものです。

 はっきりとした有用性でいえば、公務員試験や各種経済系の国家試験には、必須な科目といえます。ということは、国家が、そのような資格や職種には必要だと認めているからでしょう。それに合格するためには、ミクロ経済学をある程度学ぶ必要はあります。

 つぎに、試験とは関係がなくとも、社会人や企業人(管理者や経営者など)には必要かという問いですが、広い意味では、経済活動や社会活動にかかわる人々には、必要な学問という公式見解があります。この質問の背後にある問いは、「本当にミクロ経済学は現実の経済に役にたっているのか」ということでしょう。筆者がミクロ経済学を講じるようになって20年近くたっています(ここでは社会人大学院のことで、学部ではありません)が、その間の受講者の観察から感想を述べます。まったく、ミクロ経済学を知らない経営者も多数いますし、彼らのビジネスにおける成功とは直接的には関係していないといえます。しかし、受講されている経営者や幹部の方や社会人の大半が、ミクロ経済学を分かりたいと表明されています。その思いを解釈すると、概ね、3つのことがありそうです。第一は、ご出身が経済学部または経営学部であっても、その若かりしときにはよくわからなかったので、なんとか分かりたいという自然な思いです。せっかく、これまでにいろいろと学んできた(はず)のに、このまま分からずじまいでは寂しいという思いでしょう。第二は、経済・経営系でない学部のご出身の方で、大学ではほとんど聞いたことがないので、学んでみたいという思いの方も多いようです。たとえば、理科系の出身でも、ビジネスの世界は、経済・経営とは無縁ではいられないからです。第三は、本質問の答えにかかわることですが、自身の経営に役立てたいという思いです。とくに、経済学を学ばずに、経営を始められて、うまくはいっているものの、いろいろの課題が発生したり、将来の成長のために、ここはきちんと学んでおきたいということです。これに対する回答は、実はかなり微妙です。ミクロ経済学は、経済学のおよそ250年の歴史の中で、理論化がすすみ、高度な抽象的理論体系となっており、現実の経済とは直接的にかかわっていない理論といえます。とくに、生の経営問題にミクロ経済学が的確な解答を与えるというのはかなり無理があります。なぜなら、リアルな経営課題のほとんどは、本来、経営学やマネジメント科学のなかで議論されているからです。ただし、この個別具体的課題も、ミクロ経済学の土台のうえにあるといえます。建物によくたとえられるので、ここでもそれを使うと、ミクロ経済学は、建物の基礎設計や基本構造にかかわっています。または、建物の立つ地盤づくりともいえます。これからいえることは、直接的かつ即効的に役立つというよりは、その理論的土台形成といえるでしょう。個別具体的な課題も、結局は、ミクロ経済学理論のプラットフォームの上にあるといえるのです。

 第二の質問は、「ミクロ経済学は難解で分かりづらいのではないか」というものです。

 これに対するそっけない回答は、受講者の基礎知識の習得程度と受講態度によりますというものです。まったく、経済学用語を聞いたことのない人にとっては(本当は新聞やその他のメディアに接しているので全くないということは現実的には考えにくいのですが)、難解に思えることはある意味あたりまえでしょう。でも、それは、何の学問でもいえることで、学習当初は、とくに、難しく思えるものですが、これも慣れのひとつで、経済学用語や理論に馴染んでくれば、徐々に難しい感覚はなくなってきます。突っ込んだ回答としては、ミクロ経済学も難易度がいろいろとありますので、難しい問題もやはりあるということです。初級程度や中級、高度なものまでありますが、それは、まさに学習者がどこまでの水準を望むかということでもあります。これは先ほどの有用性とも関係しており、たとえば、公務試験合格のためのミクロ経済学も、受験水準によって異なることからもわかります。

 第三の質問は、「数学などが苦手なので、ミクロ経済学はわからないのではないか」というものです。

 優れた数学者しかわからない経済理論(とくに数理経済学)もあるでしょうが、そもそも経済学は数学そのものではないので、数学者しか分からないということではないでしょう。もしそうであれば、数学者しか経済学は語れないことになります。

 筆者が、ミクロ経済学(応用経済学なども含めて)が面白いと思うのは、次にあげる3つの表現方法で経済理論を示すことができる点です。

 その第一は、経済学は、まずは言葉で表現されます。テキストは、全部、言語は異なっていても文字で表現されています。ですから、必ずしも数式にこだわらなくてもいいのです。しかし、言葉だけだとかえって、長文となり、用語の羅列で分かりづらい面があります。筆者は、仏教典をいつかは理解したいと思っていますが、びっしり仏教用語・概念で書かれていますので、もっとも簡単な経典もきちんと理解できません。経済学も、固有の定義や概念の束としてできていますので、最初にテキストを読むと頭が痛くなります。完全に意味を理解していなくとも、概念・用語の暗記も習得の一歩ともいえます。

 そこで、第二は、図形や図表による表現をほとんどのテキストはとっています。近年のテキストは、図表だらけともいえます。図や表は、直感的で、視覚的に、全体の構図(理論枠組み)を理解するのに大いに役に立ちます。そのときに、ほとんどの図は、2次元で表現されています。3次元以上の場合、人間の認識・理解は及ばないからです。2次元の場合、横軸と縦軸にまずは注視してください。ようは、その2つの要因・変数の関係が図の中に、直線か曲線で描かれているからです。絵や図は、発明や発見の源泉や契機ともいわれています。面白い発想やアイデアは、視覚的に生まれるといわれています。図表を自分で描いてみると、経済学はより理解しやすくなります。

 第三は、数式による表現です。図示できるということは、それはすべて数字や数学や数式で表現することができるということと同じです。ですから、作図ができれば、数式はできなくてもいいともいえます。さらにいえば、この3つの表現様式は、相互に関係しあっています。言葉で表現したものは、図示できますし、図示したものは言葉で解釈できます。数式と言葉も同値だということが証明されています。これからいえることは、まずは、自分が得意な認識手法・表現手法から、ミクロ経済学に接近することがよいということです。この3つの形式で自由自在に表現できるようになれば、ますますミクロ経済学が深く理解できるようになるとともに、大変に面白くなります。

 ミクロ経済学のはじめにおいて、多くの方のありそうな質問にごく簡単に答えてきました。

 とはいえ、標準的なテキストをみてもわかるように、頁数でいえば、300頁はあります。ということは、ざっと、ミクロ経済学は、100から200程度のサブ理論から構成されているといえます。全部を知る必要はないにしても、過半は知る必要があるとともに、それらは網目のように関連しあっています。それで、ミクロ経済学の理論体系が形成されています。

 このコラムでは、最初に述べたように、上記論点をコツコツ書いていきます。

 千里の道も一歩からです。

 次回から、数回にわたって、ミクロ経済学の基礎というよりは、経済学の基礎認識を書いていきます。

 それを書く理由は、まさに、21世紀初頭的な経済現象と大いにかかわっているからです。

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