マクロ経済学第82回 ハロッド・ドーマモデル
今回は、1930年代から40年代にかけて理論化された経済成長モデルを考えます。それは、「ハロッド=ドーマモデル(Harrod-Domar Model)」と呼ばれており、ケインズ経済学を基礎においているマクロ経済学における経済成長の基本方程式です。
この理論は、ケインズ経済学が基盤なので、有効需要論が前提となって作りあげられています。
この理論の特徴は、経済成長は「不安定(unstable)」であるというモデルです。また、生産要素を代替的ではなく、補完的なものとみます。資本係数は固定されたものと考えます。
ここでは、3つの成長率概念を定式化してその関係性を論じていますので、ここでも3つの概念を定式化していきます。なお、3つの概念とは、「保証成長率( warranted rate of growth):Gw」と「現実成長率(actual rate of growth):Gr」と「自然成長率(natural rate of growth):Gn」です。
保証成長率(適正成長率)とは、資本の完全な稼働率を保証するような経済成長率のことをいいます。資本財は、需要と供給が一致しており、資本財が完全に稼働しているので、企業にとって望ましい経済成長率といえます。
ここで「必要資本係数(required capital coefficient)」とは、1単位の生産物を生み出すために必要な資本設備のことです(「資本-産出高比率」ともいいます)。それに、増加した財(△Y)をかけると投資量(I)が決まります。それを第一式は示しています。
ここで、この経済成長モデルは有効需要概念を認めていますので、次式が前提となります(これはすでに何度か本コラムに出ているものです)。
ここで、第一式を第7式に代入すると、
Gw = △Y/Y = s/v ・・・・・・・⑧
これが、保証成長率の式となります。
つぎに、現実の経済成長率(Gn)を定式化します。
I = β Yt-1 ・・・・・・・・・・・⑨
ここでのβは、前期のGDPであり、今期の投資量を決定するための係数です。企業家が前期の経済状況をみて、今期の設備投資量を決定するということはありそうなことです。
sYt = I ・・・・・・・・・・・・・⑩
第9式を第10式に代入すると、
Yt = β Yt-1 / s ・・・・・・・・・・⑪
Gr = (Yt – Yt-1) / Yt-1 ・・・・・・・⑫
第11式を第12式に代入すると、第13式が導き出せます。それが、現実成長率です。
Gr = β/ s ― 1 ・・・・・・・・⑬
次に、自然成長率(Gn)は、人口の成長と技術進歩率の合計となっています。よってそれを定式化すると、
Gn = n + λ ・・・・・・・・・・・⑭
n: 人口成長率 λ:技術進歩率
これで、3つの成長概念が定式化されました。
まず、GrがGwよりも、小さいときにはどのようなことが起きるでしょうか。
資本が完全に稼働すると、財の超過供給となります。つまり、多くの在庫を抱えることとなります。そこで、このような場合には、企業は投資を抑制しようと考えるでしょう。すると、現実の経済成長率はますます低下することになります。すなわち、2つの成長率の差がますます乖離することになります。
逆に、GrがGwより大きいときには、資本を完全に稼働することになります。すると、また乖離が大きくなります。このように、保証成長率と現実成長率とは、一致しないという不安定性がつねに存在するということをこの理論を示しています。
この現象を、「ナイフの刃(knife edge)」の現象といいます。
つぎに、自然成長率と保証成長率との関係ですが、長期的には自然成長率を超えることはできないと考えています。
このように、ハロッド=ドーマの経済成長理論は、それぞれの変数が独立しているので、3つの経済成長率が一致するということは偶然であると考えます。