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第33回 アンチコモンズの悲劇

 前回のコモンズの悲劇は、共有資源の過大利用によって、資源が破壊・枯渇することをいいました。

 これに対して、「アンチコモンズの悲劇(Tragedy of the Anti-commons)」という考え方も近年唱えられています。これは、コモンズの悲劇とは逆で、資源が私有化(私的財化)されることによる弊害(課題)です。他の言葉で言い換えると、私的財化することによって、資源が過少利用に陥る問題です。

 ヘラー&アイゼンバーグ(1998)は、バイオテクノロジーの研究における特許による研究成果の私的財化を問題にしました。

 特許は、発明者の知的創造を保護していくものであり、現在では、当然のことと考えられています。しかし、基礎研究の成果が、徹底的に、私的財化すると、応用研究や応用開発が阻害される恐れがあります。米国では1980年代以降、その傾向が強まり、川下にあたるメーカーの開発を抑制することになったといわれています。ただし、それ以前が、知的財産権の保護・管理が弱すぎたという面があったのも事実です。

 そこで、特許について、改めてその目的をみてみましょう。 

 特許とは、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」(特許法1条)知的財産権のひとつです。ちなみに、知的財産権としては、特許権のほかに、実用新案権や意匠権、著作権、ノウハウ(不正競争防止法上のもの)などがあります。営業上のものとしては、商標権、商号権などがあります。

 ここに書かれているように、発明者の保護と利用のバランスをとることによって、ひいては産業の発展を促すとの趣旨からすると、保護一辺倒ではなく、利用の促進も大きな目的なのです。この問題をもっと大きな法のフレームからみると、日本国憲法の財産権の規定(第29条)では、その第一項で、「財産権は、侵してはならない」としつつ、第二項で、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律で定める」としています。これからすると、知的財産権も国民の利用とのバランスをとるように求めているといえるでしょう。

 ただし、現実的には、「パテントプール」や「クロスライセンス」などの方法により、一定の私的財化の弊害を取り除けるといわれています。また、特許権ですと保護期間も20年、著作権では70年程度(国や著作物により異なる)と定まっており、その後は、「パブリックドメイン(public domain)」(純粋公共財としての知的創造物)となるので、いわれるほど、知的財産権の私的財化が問題とはいえないでしょう。

 日本では、著作権の保護をめぐって、いろいろな問題が起きています。著作権は、政府機関に届けることなく、権利が発生すること、および類似のものが出ることは流行やインターネットの発達もあり、あまりにも厳しい保護は、コンテンツの創造のブレーキになりかねないかもしれません。

 インターネット社会、コンテンツ社会といわれて久しいなか、知的財産権のあり方に対して、もっと本格的な議論が必要でしょう。

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