第20回 ICT効果論 その2 企業層内の効果
今回は、ICT投資における効果を、個別企業の面からみていきます。これ自体、何冊もの本が書けるくらいの内容をもちますが、ここではその概要の提示のみです。
前回は、ICT効果の発現する層は、5層考えられるといいましたが、その下から二番目のものです。
この層でのICTの効果は比較的はっきりとしています。その効果には、図表のように、大きくいうと3つの効果がありました。この効果が、いずれもないのであれば、企業はICT投資をする必要はないのですから、この3つのいずれか、または複数に効果があるとみるべきです。
第一は、「コスト削減効果」です。これはすでに述べたところですが、企業活動において、コスト削減は同じ品質のモノを作るのであれば、1円でも安い方が、好ましいのは当たり前です。費用が下がった分、利益率(利益)が上がるからです。または、価格をその分下げることも可能となります。一個あたりの利益を維持しながら、価格が下がると普通は生産量(販売量)は増えるからです。このサブドライバーとしては、図表では、「MC:限界費用」の低下を上げています。一個当たりの生産費用の逓減です。さらには、「TC:取引費用」の低下も入るでしょう。企業は様々な供給企業が作る部品や原材料を得て、商品を作っており、その取引に関する費用はかなりのものとなります。さらには、「Community C: 内部コミュニケーション費用」とここでは名付けていますが、組織内部での情報の交換に関するコストのことです。組織人員が増えると、このコストはネットワークの組み合わせが爆発的に増えるので、コストは急上昇します。大企業の機能不全現象(たとえば大企業病)もこのことが一つの要因といえます。
第二は、「付加価値創出効果」です。このサブドライバーとしては、R.T. ラストの「カスタマーエクイティ(Customer Equity)」(『カスタマー・エクイティ』ダイヤモンド社、2001)の3つのドライバーを今回は援用することにしました。すなわち、「VE: Value Equity」と「BE: Brand Equity」と「RE: Retention Equity」です。VEとはバリューエクイティのことで、モノの機能や性能や利便性のことです。まさに財の本質的な価値のことです。なお、エクイティとは、資産や資本などの総称と考えてください。BEは、ブランドエクイティのことで、モノそれ自身ではなく、モノのブランド力のことです。たとえば、優れた手作りの鞄はいろいろとありますが、フランスやイタリアの鞄はそのブランド力(名)で高い価格(価値)を実現しています。最後がREで、リテンションエクイティのことです。すなわち、企業と顧客との関係性のことです。顧客に対する様々な関係性強化のためのプログラムやイベントやコミュニケーションが考えられます。
この2つの効果は、広義の生産性を高めるといえます。なぜなら、付加価値(便益)が同じであれば、コストが低い方が経済性は高く、コストが同じであれば、付加価値が高まれば、1円当たりの価値が大きくなるといえるからです。長期的かつ持続的に、この2つの効果を生み出し続けることによって、企業の競争優位は確立していきます。
しかし、狭義の「競争優位効果」も考えられます。これもすでに述べたところですが、かつての「SIS(Strategic Information System)」がそれにあたります。近年では、「BI: Business Intelligence」や「DPF: Digital Prat form」などがこれに当たるでしょう。
広義の競争優位効果は、コスト削減効果と付加価値創出効果と狭義の競争優位効果の複合ないしは総合性によって生み出されると考えるのです。
ただし、競争概念は、個別企業の問題というよりは、まさに企業間競争の問題です。いくら自身がそれなりの効果を上げていても、競合社がそれ以上の効果をあげれば、競争に敗れて、経営が成り立たなくなることも考えられます。結果、ICT投資は無駄になったといえるときもあります。反対に、少数の勝者は、ICT効果があったといえるでしょう。
そこで、次回は、産業内の競争とICTとの関係を考えていきます。