第21回 ICT効果論 その3 競争
個別企業ごとに、ICTは効果を発生しているといえます。もちろん、無駄な投資もあるでしょう。たとえば、最新の機器やソフトウエアを購入したり、自社開発しても、業務効率を高められるかは、まさに、ICTの活用力次第という面もあるでしょう。
身近な例では、MSのofficeのexcelは、初版がリリースされて、かなりの年月が経っており、その間の改良や機能の多さは驚くばかりです。もっとも定番の表計算ソフトを100人のサラリーマンのうち、何人がまさに使いこなしている状態でしょうか。ただし、統計分析やマクロ関数を組み込むなどは単なる利用ではなく、高度な情報処理レベルにあるといえますが。この一事をみても、ICTの効果は使い方次第という面が強いのです。
ここでは、企業間競争とICTとの関係を考えていきます。
産業や市場のなかで、企業が競争する場合、ポジティブな面とネガティブな面があるでしょう。
ポジティブ面では、皆が競い合う形で、生産コストの削減がすすみ、性能や機能が高まり、それが市場規模自体を拡大するということもあるでしょう。新しい市場が勃興して拡大する過程ではよく見られる経済現象でしょう。
ところが、競争は生き残りゲームとなることも多々あります。ここでは、寡占化が進み、最後に、独占となった場合を思考実験的に考えてみます。
ある市場に100社が存在し、それぞれが100億円の売り上げがあったとします。市場全体では、1兆円規模の市場といえます。ここで、ICT投資によって、競争優位がA社のみに生まれたとします。たとえば、SISで顧客囲い込みができたとします。このA社が、全体の90%の市場を得たとします。残り10%を、99社で分け合っていることになります。この場合、残りの企業は平均で10億円ちょっとしか売り上げがないので、採算が合わず、市場から撤退せざるを得ないでしょう。または、A社にどんどんと吸収されていると考えられます。究極の形は、独占です。A社が、9000億円の独占企業となります。
A社はみごと競争に勝ち抜き、独占利潤を得る独占者になったのです。この場合、A社のICT戦略は成功し、ICT効果は極めて大きく生まれたといえます。このときに、残りの1000億円もA社の売り上げになっていれば、市場的(産業的)にはゼロサムです。しかし、A社が独占に至る過程で、もともと別の会社の商品を購入していた人が市場から離れることはあることです。また、競争の過程で、価格競争もあるので、市場のパイが縮小することは十分に考えられます。
この思考実験では、市場からいなくなった99社のICT投資は失敗であったといえるかもしれません。ただし、ICT関連企業の製品やサービスは、その市場の拡大には役立ったといえます。しかし、その顧客企業はいなくなったので、やはりこの市場でのICT投資は小さくなるでしょう。
この簡単な仮設例からでも、ICTの効果は、複雑であることが分かります。
実際は、このように単純なものではないでしょうが、ICT投資はある企業にとっては大いに効果を発揮し、ある企業には効果がないか、結果、無駄な投資となることもあるということです。
ただし、これは投資一般においてもいえることですが、ICT投資の場合、他企業に転用できないこともあります。まさに、サンクコスト化するのです。それに比して、土地や建物は長い間残り続けます。ICT投資は、陳腐化も早く、たとえていえば、蒸発してしまうようなものでもあります。一方、ICT投資によって、うまくいっている場合、レガシーとして使い続けることも多いのです。これが、新しい技術トレンドのICT投資の妨げとなることが現在指摘されています。