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総合システム論 第14回 野生の思考

 「野生の思考」は、「構造主義(Structualism)」という思想や認識方法を創唱したレヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss,1908-2009)が生んだ言葉です。彼は、フランスの社会人類学者で、主著には、『悲しき熱帯』(1955)、『構造人類学』(1958)、『野生の思考』(1962)などがあります。

 彼は、人類学として、未開社会の中の人々のなかにある知識や知恵や秩序は、現代西洋人の近代的知性と変わらないことを発見しました。これによって、近代西洋文明の絶対主義が揺らいだともいえます。

 すでに述べたように、西洋近代主義は、科学万能主義であり、いまひとつは、個人の自主性・主体性を重んじます。理性を最大限に発揮して、自由に生きることがもっとも大切だと説きます。それらを総称して、「自由主義(Liberalism)」といいました。経済学でも、近代経済学の父は、A・スミスで、まさに、自由主義的経済を唱えました。

 しかし、レヴィ=ストロースは、人間社会の背後には、目に見えない規則、構造があることを発見しました。自由な振る舞いのようにみえても、その基盤には、人の精神や行動を規定する構造が隠されていると述べたのです。さらには、個人の心にも、構造があることを、深層心理学者のG・フロイトは、発見しました。近代人の意識にも、意識と無意識(さらには前意識)があるとみました。

 さて、野生の思考ですが、もともとフランス語で、「Pensee Sauvage」で、先に示したように著作名です。

 それを支える中心概念は、「ブリコラージュ(Bricolage)」で、日本語では、「器用仕事」と訳されています。

 器用な仕事とは、「手に入る寄せ集めの素材で、上手にモノを作ること」です。または、手を使って、自身が修理をすることです。他の言葉でいえば、ハンドメイドな仕事といえます。

 これが、未開の人々の思考であるとともに、人類の根源的な思考であるといいました。

 確かに、産業革命以後、専門家やエンジニアが多数集まり、最新の理論を用いて「設計」されたものを、大工場で、自動的な機械が、大規模生産をし、大量販売をすることが、自由資本主義経済の中心の位置を占めました。それによって、多数の労働者階級の人々が中産階級化して、大量生産・大量流通・大量消費、そして大量破棄のメカニズムが世界大で確立しました。それで物質的に豊かになったのも事実です。

 他方、まさに、成熟社会のなかで、このブリコラージュ的なモノや考え方が再認識・再評価されているともいえます。それは手作りや環境適合的なモノづくりです。

 日本でも、一品モノで手作りなモノは、静かなブームとなっています。まさに、ブリコラージュな商品です。

 その作り手と買い手、ハンドメイドなモノを作る先生と生徒、健康サービスや美容サービスを提供する者と購入する者などを結ぶ「仕掛け(ストラクチャ―)」が、シェアリングエコノミー系のSNSプラットフォームです。

 さらには、直接、受益者とは関係性を結ばず、コンテンツとして、表現・供給する場合は、YouTube などのSNSを使った動画サイトです。

 レヴィ=ストロースの野生の思考という考え方は、ポスト構造主義者からの批判も受けるのですが、ポストモダンエコノミーのなかに、着実に果実を生み出しつつあるといえます。

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