マクロ経済学第60回 貨幣錯覚
今回で、労働市場論は終わります。
マクロ経済学においては、失業問題が大きな課題でした。
フィリップス曲線の話は前回しましたが、古典派の理論では、ケインズが唱えるような非自発的失業は存在せず、存在するのは、自然失業のみでした。
しかし、その自然失業率も、一時的とはいえ、一定の値より下回ることが分かっていましたが、その理由付けを考える必要がありました。
そこで、フリードマン(M. Friedman)とフェルプス(E.S. Phelps)は、「貨幣錯覚(money illusion)」という概念を導入して、短期フィリップス曲線と長期フィリップス曲線の関係を説明しようとしました。
図表を使って説明します。
E点は、自然失業率を示しています。ここで、名目賃金(W)が上昇した場合、自然失業率以下のU1点になったとします。短期フィリップス曲線(π1曲線)上を左上にシフトして、インフレ率がπ1の水準になったとします。ここでは、物価も上昇しているので、実は実質賃金水準(W/P)は変化していません。その状態を「貨幣錯覚(money illusion)」といいます。労働者は名目賃金のみに関心をもっていると考えるので、名目賃金の上昇で雇用量を増加させたのです(雇用量の増加は失業者の減少)。
しかし、物価水準も上昇したことが労働者に周知されるようになれば、その錯覚はなくなり、またもとの自然失業率の状態に戻ると考えます(図表でいえば、E’点)。
このように考えれば、貨幣錯覚を引き起こして一旦はそれ以下の水準に移行しますが、また、長期的フィリップス曲線上に戻るとみています。
よって、長期フィリップス曲線は、自然失業率で垂直な直線となります。