マクロ経済学第63回 資料編その2
今回も総理府の年次経済財政報告書(令和元年度)の資料(図表)を使って、日本の経済の実態を簡潔にみていきます。
図表1は、外食産業の売上高の推移をみたものです。
図表1 外食売上高の推移
2010年を100として、それからの伸びを示したものです。客数自体は、10年間でほとんど変わっていません。日本人の外食のひとりあたりの回数は変わらないということでしょう。それに対して、客単価と売上高はほぼ同じような推移で、10%程度増加しています。これからみると、外食産業の成長は、なじみの顧客の客単価を高める工夫が売り上げを伸ばす方法かもしれません。
図表2 耐久消費財の普及率の推移
[総理府・『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]
豊かな消費の代名詞は、耐久消費財の購入です。経済成長への寄与もこの耐久消費財の影響が大きいといえます。図表2をみると、携帯も自動車もパソコンも普及率から見ると、飽和状態(成熟状態)といってもいいかもしれません。ただし、2020年から2021年においては、自動車とパソコンの普及率はもう少し上昇するかもしれません。それは、疫病によりリモートワークが増え、公共交通機関の利用が減っているからです。
図表3 年齢別の平均消費性向の推移
[総理府・『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]
図表3は、平均消費性向の年齢別の推移を示しています。この図によって、一貫した傾向は、年齢が上がるにしたがって、平均消費性向が高いことです。とともに、近年は持ち直してはいるものの、長期的には、どの年齢帯も平均消費性向が低下していることです。
まず、なぜ、50-59歳の平均消費性向が高いのかですが、いくつかの理由が考えられます。本コラム・マクロ経済学第3回で、フリードマンの恒常所得仮説を取り上げました。この仮説では、消費は恒常所得に大きく依存するというものです。この世代の恒常所得は他の世代よりも高いことから、消費性向が高いといえます。つぎに、家族の消費額が大きいことも考えられます。たとえば、39歳以下の場合では子供がまだ小さいことが考えられますが、50歳以上の場合は、進学費用や自身の社会活動での消費が大きくなっているのかもしれません。前回もみたように、この世代は正規雇用比率も高いことも平均消費性向を高めているのかもしれません。
さて、問題は、この10年間、どの年齢層も平均消費性向が下がり続けていることです。平均消費性向が下がっているということは、逆にいえば、平均貯蓄性向が上がっていることを意味しています。なぜ、平均貯蓄性向が高まっているのでしょうか。理由のひとつは、図表1や図表2からすると、耐久消費財の普及率が高くなっており、欲しいものがあまりないということかもしれません。外食は耐久消費財との金額の比較では高くないので、そちらに消費を振りむけているといえるかもしれません。さらには、日本経済社会の将来に対して全世代が不安を感じているので、未来の生活防衛のために、現在の消費を抑えていることも考えられます。その大きな要因のひとつが、社会保障問題です。将来の年金支給金額の低下という不安があれば、自己生活を守るために、自身で貯蓄をする傾向を強めるといえます。これは、前回取り上げたライフサイクル仮説が説得力をもつといえます。
どちらにしても、日本国内の消費金額が今後も大きく伸びることは考えにくいのですが、それでも着実に高めるためには、労働者の所得を引き上げることが必要となります。そのためには、労働生産性の向上が望まれます。
そこで、次回は、労働生産性を中心に考えることにします。