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マクロ経済学第79回 資料編その18

 今回は、企業内の情報共有やコミュニケーションのための電子ツールの意義について考えます。

 企業・業務に関する情報には、外部から得られるものと組織内部から得られるものがあります。情報経済論的な組織観にたてば、外部からの情報を得るほうが安いか内部からの方が安いかで、組織規模(組織人員数)が決定されるというトランザクションコスト論が基本です。

 たとえば、内部組織員のすべての情報活動、業務プロセスの履歴、および組織内外のコミュニケーションのすべてがログ化されるとします。これは、現実にほぼ実現可能であり、これまでの知識組織論や学習組織論などは、抽象的・観念的レベルにとどまっていたのとは一線を画すことになります。その全情報量およびインテリジェンス情報の量と質こそが、知識労働者(ホワイトカラー)の仕事内容ともいえます。とはいっても、部下の教育などはどうかや、部下のやる気を引き出す行動はどうなるのかという意見も当然ありますが、それ自体も情報に基づけられます。どういう教育で、どういう行動・態度をとったのかも、いまのAIが実装されたテキストマイニングやデータマイニングではスコアリングが可能です。

 これを公式化すれば、ひとりの仕事なかでのデジタル化の比率が100%であれば、「完全デジタル業務」といえます。勿論、秘密で進められる活動や高度な知識の創造プロセスは別ともいえますが、仕事である限りは、極力、データ化、データベース化されるべきです。プライベートな活動とははっきりと区別をしなければなりません。そのためには、やはり、明確な基準と契約が必要でしょう。日本企業は、この問題を避けてきたともいえますが、テレワーク化やクラウド化やデジタル化では避けられないところまできていると考えます。

 これをもっと分かりやすくツールに置き換えて表現したものが、図表1ともいえます。

図表1 情報共有・コミュニケーションのためのシステム/ツールの導入状況

[総務省『情報通信白書令和2年度版』より引用]

 図表1は単にツールの利用状況を示しているのですが、先の議論の一端でもあります。

 現在は、コミュニケーションツールの導入が始まったばかりだといえます。ただし、このデータは2018年あたりであり、2021年現在は、様変わりしているといえます。たとえば、電話会議やWEB会議の導入はたいていの企業・組織・団体は昨年中に導入しているでしょう。

 そのうえで、業務の何%をデジタルツールで補足しているかが問われます。

図表2 業務効率向上・低下につながるシステム/ツール

[総務省『情報通信白書令和2年度版』より引用]

 図表2は、業務管理ツールによって、業務効率が向上したか低下したかを示しています。

 ほとんどの管理ツールで業務効率が向上しているという評価です。

 経済学的に評価すれば、業務管理ツールへの投資費用以上の管理コストが削減できれば、投資をしたほうがいいといえます。さらに、先に話をしたように、業務に関するデータや情報をデジタル化することで、どこに業務の隘路があり、どのような課題があるのかが浮き彫りになります。この「エビデンスべースド(データドリブン)」な管理は、2つの意味で価値を生みます。まずは、データにもとづかない従業員の言い訳が通用しなくなります。逆に、経営陣の理不尽な要求や過度な努力目標または根性主義の無意味さがあぶりだされます。これは関係者には厳しいように思われるでしょうが、ICT・AI資本(システム)に依拠しているので、属人的な偏見やバイアスが取り除けます。

 結果、本コラム・マクロ経済学第51回の「暗黙の契約」の問題を解消することになるのです。

 これにもとづいた旧態依然的な労働様式や労働契約が、日本問題を生み出し、日本経済が停滞していた原因ともいえます。

 結果に至るプロセスの見える化と結果との因果性がはっきりさせられれば、がんばって成果を挙げた労働者には高い報酬を、そうでない人には低い報酬ということが合理的であることが労使ともに納得できます。とともに、成果を挙げるための改善が発見できることが大きいといえます。生産性の低い人の労働改善ができれば、当人の所得も高くなり、企業も利益が拡大します。

すべての労働者が自身の能力を最大化できるための資本装備は、畢竟、ネットワーク資本およびAI資本といってもいいのです。

追記

今回で、マクロ経済学資料編は終了です。マクロ経済データは無数にありますが、この資料編は、次回からお話しする経済成長論、とくに内生的経済成長論に必要なデータ(資料)を念頭におきながら、日本のいくつかの白書から引用して考えてきました。日本の白書のすばらしさをまた実感しております。皆様もときどき白書を読まれることをお勧めします。

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