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マクロ経済学第81回 経済成長概念

 前回から、経済成長理論を書いていますが、この「経済成長(economic growth)」概念とは何かを今回はテーマとします。

 第80回で、経済の成長会計を書いておきながらとは思いますが、この概念に近似したものを書くことによって、一層、経済成長の意味を明らかにしようという意図です。

 実は、近接概念として、主に2つのものがあります。

 その一つは、「経済進歩(economic progress)」という用語です。これは、「移行をある理想状態に向かって直線的に進む過程」という意味です(岩波『経済学小辞典』より引用)。

 確かに、進歩という概念自体、近代西洋の合理主義が掲げた理想です。その経済版が、経済進歩です。ただし、理想的社会経済の目標があるとして、それに対して、非線形的でも、たとえば、ジグザグ的でも目標に近づく場合は、この概念といってもいいでしょう。

 いまひとつは、「経済発展(economic development)」です。これは、「非連続的な飛躍の過程」であるといいます(上掲辞書から引用)。SDGsは、前回も少し書きましたように、持続可能な発展目標であり、この概念に近いといえます。この中には、量的なものより質的なものへの変革が組み込まれています。

 経済進歩と経済発展の概念を統合・総合したものに、「経済的厚生(economic welfare)」という概念もあります。

 この概念を体系化した「厚生経済学(welfare economics)」は、「欲望ではなく、満足を中心において理論が展開されている」といいます(同掲書引用)。厚生経済学の定義としては、「社会厚生の概念に内部制御を加えて、経済政策が妥当かどうかの基準を確立し、その応用を企図した経済学」の一分野といいます(『ブリタニカ国際大百科事典』からの引用)。J・ベンサムから始まり、A・ピグーによって体系化されました。ちなみに、厚生経済学の名は、ピグーの”The Economic of Welfare”(1920)からとられています。彼の命題は、第一に、国民分配分の増加、第二に、貧困層の分配の増加、第三に、経済の安定の増大といいます。

  これに対して、経済成長の概念は、「経済の動きを量的な連続的な非歴史的変化」とみています(上掲辞書引用)。

 ここで、親近性の高い3つの概念をまとめると、経済成長は、あくまでも、量的な変化量の把握であり、実証主義的ですが、経済進歩や経済発展は、質的で規範主義的です。

 量的変化と質的変化をどう弁別できるのかという問題は、大変に難しい問題です。

 また、理想的な進歩とはなにか、発展における衡平・公正・正義となにか自体も、大変に難しい問題です。なぜなら、この概念の中には、価値要因が入っており、その基準となる価値観は、人それぞれに異なるからです。

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