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AI経済学 第4回 アプローチ2

 前回は、AIに対する認知科学からのアプローチを簡略に述べました。

 今回は、その近接学問をもう少し眺めてみます。

 そのひとつに、「認知心理学(Cognitive Psychology)」があります。認知心理学は、言葉からして、認知概念を心理学的手法で解明しようという目論見です。

 この学問分野と認知科学は、ほぼ同じと捉えられいますが、後者の方が、科学というもう少し普遍的用語なので、後者のほうがより包括的な概念(学問範囲)といえます。

 辞書の定義をみると、認知心理学とは、「1960年代に台頭した心理学の一分野」で、「対象を認識する作用、および学習によって得られた知識に基づく行動のコントロールを含めた認知の過程、すなわち生体の情報処理過程を明らかにしようとする学問」であるといいます(『ブリタニカ国際大百科事典』より引用)。

 『認知心理学』(道又爾他著、有斐閣、2009)では、認知心理学には重要な社会的意義が5つあるとしています。それをまとめて書き出してみると、第一は、「情報処理システムという人間」という理解です。第二は、様々な「障害をもつ人々の援助に貢献できる」ことだといいます。第三は、「人間と機械の間の協調システム(マン・マシン・インターフェース)の開発に貢献できる」といいます。第四は、「心理学の他の分野の発展に大きく貢献した」といいます。第五は、「『認知哲学』という新しい哲学を生み出した」といいます。

 第一の情報処理モデルは、その後、経営学やマーケティングの中でも情報処理型モデル(消費者モデル)などのように、様々な人間の意思決定や行動を情報処理という側面から把握しようという試みへと発展しました。たとえば、現代マーケティング学の第一人者であるP・コトラー(Philip Kotler)他著『マーケティング・マネジメント』(恩蔵直人監訳、ピアソンエデュケーション、2008)の中で、「購買決定プロセス」として、5つの段階があげられていますが、それは、「問題認識」「情報探索」「代替製品の評価」「購買決定」「購買後の行動」というように、全過程が情報処理によって成り立っているといえます。このように、あらゆる社会科学領域の人間観のひとつに情報処理モデルが入り込んでいるのです。第二は、いまでは、「身体拡張」として、コンピュータを身体に装着または埋め込んで、様々な器官の補助に役立てようという装置開発へと繋がっています。これは、「ヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)」といいます。第三に対しては、もっとも発展が著しい面ともいえます。たとえば、自然言語による機器との会話や自動車運転におけるカーナビや安全運転の支援などです。第四は、様々な応用心理学の発展への貢献をうたいます。第五は、ちょっと前に話題となった、「AIによってコンピュータは意識やこころをもつようになるか」などの問です。AIの発展がかえって人間存在を再認識しようということにもつながっています。

 このように、コンピュータおよびソフトウエアが、人間の心理的側面に近づこうとするならば、認知心理学は、その人間心理の基礎理解を促進させる学問分野といえます。

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