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第19回 ICT効果論 その1 層の認識

 今回から、ICTの効果に関する議論を展開しましす。

 筆者は、15年前に、『IT資本論』(毎日コミュニケーションズ)という本を書きました。それを今回の執筆のために、読み返しました。

 自身の感想で恐縮ですが、その内容と今のICT投資の効果論は概ね同じだったといえます。

 ただし、この間に、ICT関連はその中心軸が大きく変化しているのも事実です。たとえば、その当時は、EC(電子商取引)が急成長を始めた時期であり、インターネットビジネスも様々なものが台頭する時期でした。そのひとつであるSNSもその後大発展を遂げました。AIもいまの第三次ブームはありませんでした。大きくいうと、基幹系ICT資本よりも、情報系・サービス系のICT資本が成長の中心だったように思います。

 これまでも何回か出てきた情報通信白書も、また、「生産性パラドクス」または「ソローパラドクス」を取り上げています。これは、「本当に、ICT資本(投資)は効果があるのか」という問いです。

 また、ICT投資が大きいにも関わらず経済効果が表れないというパラドクスが再来したという認識が広まっているからです。 

 これは、さきに示した拙著の頃と似ています。拙著は、米国および日本において、ドットコムバブルまたはネットバブルが弾けて、数年後に書かれたものです。やはりICT投資には経済効果はないのではないかといわれていたのです。

 そこで、15年を経て、新しく「ICT資本と経済的・経営的効果」分析を再開してみたいと思ったのです。

 ただし、本コラムのテーマは、「e-マーケティング」ですので、もっと具体的で実践的な内容を書く予定なのですが、その基盤的・基層的議論をこの際、きちんとしておきたいと思い、このような話をここ当分していきたいと思います。

 ICT効果論の第一回目として、ここでは、「ICT効果の分析はフレームを明確化して議論すること」の重要性を考えます。

 ICT投資や利活用には、効果があるのかないのかは、その対象とするフレームごとに異なるとみるべきなのです。

図表 世界構造とICT効果の発現に関する図表を

 図表では、5つのフレームをあげています。第一は、世界経済ないしはグローバル経済におけるICTの効果です。第二は、国家経済で経済成長や生産性の寄与の議論です。第三は、産業レベルでの効果です。SCMや業界標準化技術などがこれの内容になります。第四が、企業やその内部組織や各種組織におけるICTの効果です。第五が、消費者であれ、労働者であれ、個々の利活用における効用や利便性の議論です。

 この5つの層(レイヤー)で、ICT資本の内容や効果が異なるとみています。この層は概念的に層として認識しているのですが、効果としては、「多面的効果」と「多層的効果」と「複雑的効果」の3つを考える必要があるといえます。多面的効果としては、すべての層には「コスト削減的効果」と「付加価値創出効果」と「競争優位効果」の3つがあるといえます。狭義では、企業・組織層のなかにでていますが、背後にはどの層にもこれがあるといえます。複雑的効果は、労働や狭義の資本や無体の知的資本やICTのハードウエアやソフトウエアおよびネットワークなどが複雑に絡み合っているとみます。ひとことでいえば、「ICTエコシステム」とでもいえるものです。

 ここでは、層ごとに、ICT効果の発現可能性を論じていきます。その2回目として、次回、企業におけるICTの効果を考えます

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