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第27回 ICT効果論 その9 生産性パラドクスの2

 前回に引き続き、生産性パラドクスに関する考察をしています。

 ICT効果があるのかないのかについては、あるから投資しているということは確かなのです。ただし、投資の割にはその効果が大きくないのではないかというのが本当の問いでしょう。

 個別企業の視点、いわばミクロ的視点にたつと、効果が大変にあった、または少しあったこともあるでしょう。逆に、ほとんどなかったり、まったくないということもあるでしょう。それは個別主体の経営状況が様々だからです。さらには、ICT投資戦略の問題もあるでしょう。

 では、国家レベル、いわばマクロ的視点にたった場合はどうかを、経済成長への寄与率という面からみていきます。

 経済成長率は、資本の成長率と労働力の成長率とTFP(Total Factor of Productivity:全要素生産性)の増分の総和です。より正確にいえば、資本成長率は、資本投入量と資本分配率をかけたものであり、労働成長率は、労働投入量に労働分配率をかけたもので算出されます。

 そこで、さらにICT資本などに分けていくと、ICT資本の経済成長率への寄与率が分かります。それを示しているのが、図表です。この図表では、日本と米国の経済成長への寄与率を5つの要因で比較したものです。

図表1 実質GDP成長率への寄与率
 [『我が国のICTの現状に関する調査研究』(総務省、2018)資料より作成]

 図表は総務省のデータから作成したものですが、少し補足します。まず、「労働の質」という要因です。総務省の説明では、労働の質とは、学歴や勤務などによる労働の質をいうとしています。なお、先に出てきたTFPとは、一言でいえば、技術進歩のことで、労働力と資本の成長率を除いた残余として計算できます。

 全体の経済成長率は、米国が、図表の4期で日本よりもすべて高い値となっています。しかし、この10年(ただし最後の年は2015年)は、米国では低調なスコアとなっています。それに対して日本は、2006年から2010年の間は、0.15%というほぼゼロ水準でしたが、それ以後は1%を超える程度まで回復しています。

 日本のみを考えてみると、この20年間、労働力は、一貫してマイナス成長となっています。2011年から2015年をみると、「労働の質」が、0.49%で、TFPが、0.44%です。それに対して、一般資本が0.02%で、ICT資本が0.07%となっています。ICT資本は、一般資本の3.5倍の貢献をしていることが分かります。ただし、一般資本は公共投資と民間の設備投資なので、前者は財政緊縮、後者は国内生産の縮小傾向などで振るわない結果であったといえます。ICT資本は、絶対的数値では、ほんのわずかしか貢献していないといえます。ただし、TFPのなかに無体のICT資本またはそれによって支援されているものも含まれているともいえます。2重カウントはないと考えると、TFPのなかにICT資本の成果の一部が入り込んでいる可能性はあるでしょう。

 米国のICT資本の寄与率は0.14%であり、日本よりは高いものの、絶対的数値では低い値といえます。しかも、図表の第一期では、1.38%もあったものが、下がり続けているのです。これがまさに、ICT資本による生産性パラドクスの再来を裏付けるものです。なお、米国問題としては、労働の質の低さとTFPの低さがあげられます。米国経済においては、GAFAなどは「スーパースター経済」の立役者ですが、米国経済全体では、質的劣化が進んでいるように思われます。これが、所得格差が著しく進んだ理由のひとつでもあります。ただし、日本は労働者の高齢化がすすんでいるので、これが労働の質にカウントされているので、この面も慎重に考える必要があります。

 ここで今回のまとめをしますと、日本の場合、低経済成長ですが、そのうちのICT資本の寄与率は0.07%で、一般資本の0.02%の3.5倍でした。しかも、ICT投資は他の民間設備投資の半分以下なので、ICT資本の生産性はかなり高いといえます。ただし、日本も米国もICT資本の経済成長の寄与率は、一貫して低下していることもわかりました。

 総じていうと、米国も日本も、経済成長におけるICT資本の貢献度は下がり続けているという面では、生産性パラドクスは起きているといえるでしょう。

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