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マクロ経済学第53回 調整コスト

 ひとりで活動しているときは、個人の自由ですべて差配できますが、複数名以上で活動するときは、やはり調整が必要となります。

 本コラム第48回で、失業の分類をしました。そのなかで、摩擦的失業というのがありましたが、それは、ここでお話しする「調整コスト問題(coordination cost problem)」ともいえます。

 標準的な経済学は、市場をつかって資源の最適配分が実現できると考えています。しかし、あらゆる場合に、市場がうまく機能するとは言えません。たとえば、公共財の供給や外部性が存在する場合です。この場合は、「市場の失敗(market failure)」と呼ばれています。

 今回の「調整コスト」は、社会全体の調整コストがかかる場合と個別企業内の調整コストがかかる場合が考えられます。これも「市場の失敗」の一部といえます。言い換えれば、「調整コストの失敗(coordination cost failure)」ともいえます。

 社会全体の場合、たとえば、第一次産業の市場が縮小しているときには、そこに余剰の労働者がいることになります。または、賃金水準が低いことも考えられます。彼らが成長著しいICT産業の労働者になれば、この分野は人手不足でかつ賃金水準も高いので、望ましい労働資源の配分といえますが、知識や技術の面で労働移転は簡単ではないと考えられます(ICT産業が長期的に望ましいかどうかではありません)。逆もしかりです。

 このようなことは、あらゆる産業間でみられます。最適な人材の発掘と教育にはコストがかかります。すると、ICT産業内では、人材の流出を防ぐために、賃金の下方硬直性がみられるかもしれません(ただし、慢性的な超過需要状態ともいえますが)。

 つぎに、個別企業における調整コストを考えてみます。ICT企業は、常に優秀な人材が不足しており、人材の取り合いとなっています。もし、自社の賃金水準が低いとすると、簡単に人材は転出するでしょう。有能な人材を自社にとどめるためには、やはり賃金水準をある程度高めなければなりません。本当は、企業間同士で、人材のトレードができれば、両者にメリットが生まれることも考えられます。しかし、そのような人材の調整をする機関もなく、それをすることもまたコストがかかります。そうであれば、賃金水準を高めにしておいて、現有の労働者の意欲を引き出した方が望ましいと考えることは合理的判断です。

 昨今、ICTを活用した人材プラットフォームビジネスは増えつつありますが、これも大きなコストがかかるので、完全に人材の最適配分は実現できないといえるでしょう。

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