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マクロ経済学第64回 資料編その3

 今回も、総理府年次経済財政報告書(令和元年度)の資料(図表)を使って、日本の労働に関する実態を簡潔に解説していきます。

 疫病が蔓延する以前は、日本経済は人手不足の状態でした。それに連動して、少し賃金水準は上がっていました。 

 図表1は、人手不足に対する企業の対応をあげています。

    図表1 人手不足の対応

[総理府『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]

 もっとも大きな対応は、「新卒・中途・経験者採用の増員」であり、第二は、「従業員の待遇改善」、第三が、「定年延長・定年後の再雇用制度の拡充」と続きます。第四が、「従業員の育成」で、第五が、「外注先の開拓」で、第六が、「採用条件の緩和」で、第七が、「省力化投資」で、最後が、「再雇用」です。これをみると、大きくは、4つに理由が分かれています。まずは、とにかく労働力の確保であり、次が、外注先の開拓です。労働生産性の向上という面では、残りの2つに注目したいと思います。

 まず、従業員の育成です。ひとりひとりの労働者の技能や知識が向上すると、同じ人数でも量と質の拡大が可能となるからです。一時期、労働者への教育投資が減りつつありましたが、やはりひとりひとりのマンパワーを高めるための教育体制が重要だと考えられます。いまひとつは、省力化投資です。労働者の代替として、または補完としてなんらかの省力化のための投資は必要でしょう。その代表が、ICTおよび広い意味でのロボット、そしてAIを使った業務のオートメーション化です。

   図表2 人手不足と内部ミスマッチ別労働生産性

[総理府『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]

 図表2は、「人手不足×内部ミスマッチ」という要因の組み合わせにおいて、どのクラスターの労働生産性が高いかをみたものです(大変に興味深い分析です)。

 「人手不足なしで内部ミスマッチなし」を100として、それ以外の組み合わせのパフォーマンスをみると、人手不足はないが、内部ミスマッチングが大きいという企業は、大きくパフォーマンスを下げています。内部マッチングは、「調整コスト」とみることができます。それぞれの企業が求められている仕事内容は日々変わっていきます。配置転換で済む場合もあれば、それではまったく対応できなこともあります。たとえば、全社的なICT化を進めようとした場合(いまはやりのDX化)、従業員のだれもそれに関する知識と技能をもたないならば、配置転換によって改善は望めません。外から専門家や技能者を登用するしかありません。そうすると、人手不足ではなく、人余りとなります。この場合は、余剰の人員を子会社に転出させるか、再教育するか、早期退職しか考えられません。まさに、そのような大企業も出始めています。第50回で述べた日本型雇用システムの崩壊の始まりといえます。

 あとは、人手不足の3つのパターンですが、それぞれパフォーマンスはよくありません。ここの統計には出ていませんが、上記統計調査によると、人手不足の企業は、資本装備率が全般的に低いのです(総理府の同報告書を読まれることを推奨します)。とくに、中小企業ほど資本装備率が低くなっているのです。これから分かることは、労働需要が大きいことはいいことですが、マンパワーのみに頼るのではなく、様々な生産性向上ツール(ハードおよびソフトとネットワーク)を導入すべきだといえます。

       図表3 失業率と名目賃金

  [総理府『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]

 図表3は、失業率と名目賃金との関係をしてしているものです。

 まさに第59回、60回でみたフィリップス曲線です。

 新しい年代ほど、曲線の形状が横にねています。すなわち、失業者の増減によっても、あまり賃金が変わらないということです。インフレ率も大きくない中、日本経済は安定しているともいえますが、主要先進国のなかで、日本の名目賃金は低いのです。

 労働生産性をもう一度大きく引き上げられれば、労働者の賃金は上昇し、消費も拡大します。他方、企業もより大きな利益が残りますので、ますます先端的な資本投資をおこない、高付加価値を生み出し、結果、さらに労働生産性を高めるといったポジティブフィードバックが持続的に生まれるような投資循環サイクルが大いに望まれます。

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