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マクロ経済学第74回 資料編その13

 今回も、総務省『情報通信白書令和2年度版』の資料を援用して、企業研究費及び研究者数の推移を考えていきます。

 日本は科学立国であり、日本人の知的水準は高いと自負しています。この自己認識自体はあまり間違っていないと思いますが、いろいろな科学領域や経済分野で、日本の世界的順位は低下しているように思われます。

 世界経済(とくに先進国間)は、時間(年)の推移とともに、平準化(収束)するという見方もあります。このことに関しては、この資料編後の経済成長論であらためて取り上げますが、研究者数や研究費や特許数などと経済成長との関連が議論されています。しかし、いまだに不明な点も多いといわざるを得ません。

 今回は、その基礎資料を概観します。

      図表1 企業の研究費の割合

[総務省『情報通信白書令和2年度版』より引用]

 我が国の科学技術研究費総額は、2018年度で、19兆5260億円です(図表1の出典資料参照)。この構成は、企業、非営利団体、公的機関および大学等です。そのうち、企業系は、14兆円余りで、全体の74%を占めています。さらに、情報通信産業は、企業系のうち、27.5%を占めています。およそ3割が、情報通信産業の研究費といえます。

 日本経済は様々な産業群から構成されており、経済成長の寄与もバランスがいいともいえます。ある産業・企業しかない場合は、その分野・企業の発展が止まると経済全体が急速に衰退するリスクが大きいからです。その意味では、企業系の研究費の中で、情報通信系がおよそ3割というのは、いい配分なのかもしれません。

 ただし、昨今のインターネット社会、第4次産業革命の最中で、インターネット関連に関する研究費の投入が低いように感じます。図表1のように、情報サービス産業と合わせても、その比率は2.3%しかありません。やはり、情報通信産業の中では、モノの製造割合が圧倒的に大きいといえます。

 いわゆるGAFAMは、モノが中心なのは、アップルのみです。Gのメインサービスは、検索エンジンまたはYouTubeですが、その基盤はAIが支えています。Aは、世界最大のECサイトで、これまたAIがロジスティックの基盤技術です。Fは、SNSで、最近は子会社のソーシャルメディアの利用率が大きく伸びています。Mは、PCのOSの王者として永らく君臨しています。どれも、PCおよびインターネット技術の基盤のうえに、AIやIoTおよびビッグデータと合わせて、情報およびサービスの最適化で世界のライバルを圧倒しています。

        図表2 企業研究費の推移

[総務省『情報通信白書令和2年度版』より引用]

 図表2は、日本企業および情報通信産業の研究費の推移を示しています。全体としてみた場合、情報通信産業の比率が落ちつつあります。

        図表3 企業研究者数の推移

[総務省『情報通信白書令和2年度版』より引用]

 図表3は、日本企業および情報通信産業の研究者数の推移を示しています。まず、全体的にいうと、研究者の数は増えていません。これもマクロデータなので、日本経済のGDPと同期していることは考えられます。GDPが伸びていないので、研究費及び研究者数が伸びていないと考えられます。

 同じことの繰り返しとなりますが、インターネットおよびAI関連ビジネスは、情報通信産業全体からすればそう大きな費用ではないとともに、他の産業への波及効果が大きいと考えられます。

 インターネットやAIも、いわば、メタファーとしてのテクノロジーです。前者は、新しいコミュニケーションの可能を開くことの象徴であり、後者は、煩雑な情報処理の自動化・自律化の象徴です。それが、IoTというセンサー内臓のターミナルとクラウド化によって、ビッグデータが形成できれば、そこに新しい付加価値が陸続と創生するというシナリオです。

 日本経済の不調が、30年続いているということと、30年間、インターネットビジネスが米国で大きな花を咲かせているということは、シンクロしていると思わざるを得ないのです。

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