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マクロ経済学第85回 経済成長論の課題

 新しい経済成長論を書く前に、これまでの経済成長論の課題を簡潔に指摘しておきます。

 まず、ケインズ経済学にもとづくハロッド=ドーマモデルは、経済成長の不安定性が大きなテーマでした。

 これに対して、新古典派経済成長モデルの代表であるソロー=スワンモデルでは、安定性が導出できる理論でした。

 日本の経済成長も、戦後に限ってみても、高度成長をへて安定成長、いわゆるバルブ経済を迎え、その後、失われた30年となっています(1991年バブル経済崩壊年とするとちょうど2021年は30年目)。その間、中国や東アジアの国々は大変な経済躍進を果たしました。このような世界経済の発展史を俯瞰すると、ある時期、大きく飛躍(テイクオフ)し、その後高度成長期から安定成長、そして低成長化するのは、新古典派経済学の基礎とする収穫逓減の法則通りともいえます。実際、欧米の先進各国も日本も同じ状態に収束しています。

 この新古典派経済成長論の課題としては、大きくいうと2つあります。

 第一は、技術進歩率や貯蓄率が、外生的に与えられているということです。外生的とは、経済モデルの枠組みの中ではなく、その外から与えられるということです。これでは経済成長の基本的要因が何であり、政策的にどのように改善すればいいのかが分からないといえます。とくに、本コラムのマクロ経済学第80回でみたように、技術進歩(TFP)が経済成長の大きな要因なのです。その要因のメカニズムが示せないというのは、やはり、大きな欠点といえます。

 第二は、新古典派経済成長モデルが、コッブ=ダグラス型生産関数を基礎においている以上、資本(K; Capital)の成長によって、経済成長が次第に鈍化することが免れられないということです。それは、限界生産力逓減の法則がその背後にあるからです。人口増加や技術革新がなくなれば、成長が止まるということになるからです。確かに、上述したように、日本経済の成長率は鈍化・停滞していますが、それでも少しずつは成長しています。これをどのように解釈・評価すべきかは、今のところはっきりしているとはいえない状況です。

 敷衍すると、第一に関しては、経済モデルが十分な説得性を持っていないということを自ら露呈しているようなものです。第二に関しては、確かに、主要先進国の経済成長は、すべて低成長率であり、成長が止まりつつあるともいえます。それは、新古典派経済成長モデルがうまく実態を捉えているともいえますが、それでも、先進各国は成長し続けていることも事実です。

 今後も、適正な安定成長を続けるためには、どのような新たな理論フレームが必要なのか、どのような新しい投資が必要なのかなど、考えなければならないことは多く残されています。

 そこで、技術進歩を内生要因と捉え、成長し続けるモデルが模索されるようになりました。

 それが、次回からお話しする「内生的経済成長モデル(Endogenous Economic Growth Model)」です。

 このモデルの基本的発想や理論フレームは大体同じですが、その構成要因(変数)は研究者によってかなり異なっており、まだ、理論的発展途上にあるといってもいいでしょう。

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