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第10回 収穫逓増下の費用問題

 前回のコラムでみたように、ICTビジネスやネットビジネス、はたまたプラットフォームビジネスは、「収穫逓増の法則」を体現化すれば、あっという間に、巨万の収入を実現することも不可能ではありません。まさに、アメリカンドリームの世界観が訪れます。ちなみに、ジャパンドリームという言葉が死語なのは寂しい限りです。

 しかし、収入の急拡大の裏で、費用も急増すれば、「利益なき繁忙」となり、早晩、経営危機が訪れるでしょう。なぜなら、一端、売り上げが落ち始めると、つるべ落としのごとく、赤字がはらみ続けるからです。

 ICTビジネスの費用関数は、下記のように捉えられることが普通です(ただし、個別企業ごとに経営状況は異なるのですが)。

 小さなICT関連のガレージビジネス(軒先でのビジネス)やベンチャービジネスは、本来、資産をもっていません。かの故スティープ・ジョブズのAppleは、まさに典型例です。かれらが保有するのは、アイデアとテクノロジーのみです。その場合でも、ネットワークの法則(収穫逓増の法則)が実現されるまでには、相当な初期投資がかかります。まずは、この費用をどこから調達するかが大きな問題です。米国では、シリコンバレーのように、この手のビジネスの成功例が数多あるので、投資ファンドや巨万の富を築いた先達のエンジェルが投資してくれるでしょう。ところが、日本ではそのような存在自体が少なく、かつ、ベンチャー企業は、全既存企業数からすると、きわめて少ないのです。

 さて、本題に戻りますと、ICT系のビジネスの費用では、まずは初期投資がかなり大きくなります。売り上げが立たないのにも関わらず、初期開発費用が大きいのです。別の言葉でいえば、固定費用(fixed cost)が大きいのです。この問題をまずは乗り越える必要があります。

 つぎに、「商品普及の理論」からすると、最初に飛びついてくれる「イノベーター(革新者または確信者)」は、全体消費者の1から3%程度です。ここは、ユニークで面白いことをすればなんとかなるゾーンともいえます。世の中には、1%の変人(マニア)は古今東西いますから。でもこの数は、統計的にいうと、誤差の範囲です。成功のカギを握っているのは、その後に続く、「初期採用者(アーリーアダプター)」です。

 もしこのあたりまで、消費者を惹きつけられれば、初期投資コストは見合ってきます。ICT系の投資は、初期投資が相対的に大きいのですが、追加費用は小さいのです。経済学でいう追加的な限界コスト(marginal Cost)は小さいのです。

 このプリミティブな見方でいえることは、まずは、投資家をどれだけ惹きつけられるかということです。さらには、消費者の15%あたりまで取り込めれば、大成功の可能性はかなり高くなります。その後に続く、マジョリティ(消費者のおよそ70%から80%)が消費してくれるためには、越えなければならない「死の谷(death valley)」が待ち受けています。企業の上場が可能な否か、持続的発展可能かどうかは、この谷をどう乗り越えるかにかかっていますが、これは、今回の論点とはまた違うフェーズなので、後にみることにしましょう。

 このコスト面でも、ネットワーク経済的にみると、似たような先発の企業の支援やアライアンスが成否を握っているように思われます。

 結果、新進気鋭のICT企業が、大資本の企業の子会社や関連会社になることも多いのもそのためです。

 つぎつぎと開発をしていくためには、この世界の企業でも、大きな資本が必要であることは、既存企業と同じだといえます。

 もっと極論すると、この世界こそ、「ひとり総どり」(“all or nothing” and

“dead or alive”)の経済世界なので、急速な台頭と急速な吸収が支配するのです。

 

 

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