第17回 モラルハザード問題
逆選択問題は、契約をする前に起きる現象でした。
この「モラルハザード問題(moral hazard problem)」は、契約後に発生する問題です。
本来は保険用語で、保険契約者が、保険の加入後に、ネガティブな行動にでることをいいます。たとえば、自動車の任意保険に入ると、それまで慎重だった運転が、荒くなり事故率が高まることや、生命保険でいえば、節制していた生活が、暴飲暴食な生活に変容するなどです。
このようなことが多くみられると、保険会社の支払金が増加して、保険が成り立たないことも考えられます。
そこで、事故を起こした場合は、次年度の保険料を高くすることで、契約者のモラルハザードを防ごうとします。
このモラルハザードは、この保険契約にのみ起きる問題ではなく、あらゆる契約後に起きる普遍的な現象といえます。
たとえば、会社に雇われた労働者も、雇われる前は、経営者に真剣に働くことを大いにアピールしますが、雇用後は、あまり熱心に働かないことは普通にありそうなことです。または、徐々に怠けるようになるなども同じことです。日本で、とくに、固定給制度ですと、労働者が成果を出さなくても、固定給は保証されるとともに、解雇が容易ではないからです。また、労働契約自体が、基本契約のみで、具体的な活動や成果などの条件が細かく取り決めていないことが多く、モラルハザードが生まれる前提ともいえます。ただし、細かく決まっている場合は、それしかやりませんということになります。
このような場合、ちょっと難しい表現を使うと、情報をもっている方は、契約後に、「機会主義的行動(opportunistic behavior)」をとるといいます。この行動は、モラルに制約されない利己的な行動のことで、その場その時に、もっとも自己に都合のいい行動を取ることです。
モラルハザードをどう防ぐかは、労働契約問題でも、もっとも重要なもののひとつです。