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第72回 動学ゲームとその解法

 これまでみてきた3つのゲームは、「静学ゲーム(Static game)」でしたが、今回のゲームは、「動学ゲーム(Dynamic game)」です。

 動学ゲームというのは、戦略決定に順番(手番)があるようなゲームのことです。ですから、利得表のようなものではなく、意思決定の順序を示した方が都合がいいので、「ゲーム木(game tree)」のような表現を用います。他の呼び方では、樹形図と呼ばれているものです。ここではゲームツリーと呼びます。

図表1 ゲームツリー

 今回の動学ゲームの課題を示しておきます。

 Aという老舗の大型スーパーがある地域に存在しています。このAは、地元に大変に支持されおり、地域独占、自然独占のような存在です。しかし、この同地域に、Bという新進の大型スーパーが進出をしようとしています。Aが打てる手は、「価格を引き下げる」か、「価格をそのまま維持する」かという2つの選択肢であるとします。本当はもっといろいろな行動・戦略が考えられるのですが、2つの手を示せば最少の選択肢となるので、ここでも2つの行動があるとします。これに対して、Bは、この地域の中に「進出」するか、「見送(断念)」かのどちらかの選択肢をもつとします。

 では解法手順を示していきます。

図表2 サブゲームⅠの解法

 この問題では、全体のゲームツリーの中で、2つのサブゲームの部分が存在します。まずはそのサブゲームを考えて、それから上方の戦略決定をします。後方(下方)から考えていきますので、そのような手法を「バックワード・インダクション(backward induction)」と呼びます。すべて部分ゲームでナッシュ均衡になっている組を「部分ゲーム完全均衡(subgame perfect equilibrium)」といいます。これは、展開型ゲームの基本的な均衡概念であるといわれています。

 今回は、これを求める作業をおこないます。

 まず、サブゲームⅠを考えます。図表2の赤い線で囲まれた部分がそれです。ここでのBは、「進出」か「見送」かのどちらかを選択します。これはすでに述べましたが、利得表は、(Aの利得、Bの利得)を示しています。Bの出店の場合は、(-20、-20)であり、Bの見送の場合は、(70、0)ですから、「0」のほう、すなわち、「見送」を選択します。選ばれた枝は、図表2で赤い線となって表示しています。

図表3 サブゲームⅡの解法

 つぎに、サブゲームⅡを考えます。図表3の赤い線に囲まれた部分です。これも上記と同様の判断をすると、(50、50)の「進出」ほうが有利なのでこちらを選びます。こちらも選ばれた枝は赤い線で表示しています。

図表4 Aの戦略確定

 最後に、今度は、Aの戦略決定を確定します。先のサブゲームⅠでは、Aの利得は「70」で、サブゲームⅡにおけるAの利得は「50」でした。Aは、前者の方が有利なので、「価格引下」の選択をします。図表4のⅢに当たる部分での戦略決定です。

 結果、Aは、「価格引下」を選択し、それを受けて、Bは、「見送」を選択することになります。

 このように、2者の非協力ゲームでかつ動学ゲームでは、後方から問題を解いていくことになります。

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