第18回 ホールドアップ問題
この「ホールドアップ問題(hold-up problem)」も、契約後に起きる問題のひとつです。
この場合、まず、「関係特殊的投資(related specific investment)」が前提となります。
この関係特殊的投資とは、「ある関係をもった人々の間においてのみきわめて高くなる資産への投資」のことです。
この問題は、「関係特殊的投資」を進める当事者が、他の当事者から、「投資の成果を渡さなければ関係を打ち切る」という脅しを受けやすくなるということです。
分かりにくいので、具体的な事例から考えてみたいと思います。ある企業Aがいて、あるICT開発企業Bがいるとします。Bは、ICTやAIに関する技術をもっていますが、創業間もないので、資金をもちません。Aは、Bを育ててやろうという気持ちもあり、BにICTシステム開発を依頼しました。Bも当初は、はりきって開発をしていましたが、その後、いろいろの企業から評価されるようになり、Aの仕事をおざなりにするようになりました。そこで、Aは、Bの態度に腹を立てて、Bとの取引関係を切ろうとしました。すると、Bは、契約解除をするのならば、ICTシステムのプログラムのソースを渡さないし、メンテナンスもしないといってきました。しかも、メンテナンスの単価を釣り上げてきました。Aが、契約を解除すると、途端にシステムが止まり、仕事が滞ることになるので、契約の継続とメンテ単価の上昇も受けれました。
以上のケースでは、まずは、最初の契約に不備があったということです。つぎに、B社のみに依頼するのではなく、複数の企業と取引をしておくべきだったのです。
それをせずに、漫然と、Bは、つねに良心的に振舞うだろうという安易な理解だったのです。この場合では、Aは、自社のシステムを人質にとられて、脅されているような形となってしまったのです。
今後は、ホールドアップせざるを得ない立場に追い込まれないように、取引関係を多様にしておくべきでしょう。
さらに、契約後には、人は、変容(変貌)することを、常に、こころに留めておくべきでしょう。
もっといえば、Aは、関係特殊的投資に対して、もっとセンシティブに対応すべきだったでしょう。
関係特殊性問題は、個人間関係でも、もっとも気を付けるべきものです。
読者はなにを想定しますか。