第77回 ヘクシャ=オリーンの定理
今回は、前回のリカードモデルと必ず比較される「へクシャ=オリーン・モデル(Heckscher-Ohlin model)」の定理を考えます。
そこで、リカードモデルとの相異点を表にまとめてみました。それをつかって話を進めます。
まず、市場を規定している要素の相異点をみてみます。リカードモデルは、2国2財で一つの生産要素である労働力のみを取り上げました。これに対して、へクシャ=オリーン・モデル(HOモデル)では、労働力とともに資本も生産要素として取り上げています。ミクロ経済学では、資本と労働は2大生産要素なので、こちらのほうが貿易の説明としてはより現実的だといえます。
また、2財を生産することは同じですが、リカードモデルでは、比較優位な財のみを生産すると考えます。これを「完全特化」といいましたが、へクシャ=オリーン・モデルでは、「不完全特化(incomplete specialization)」で議論をします。現実的な経済国家は、部分的な特化で貿易をしているので、こちらも後者の方が現実的といえるでしょう。
分業に関しては、リカードモデルが「垂直分業(vertical international specialization)」で、ヘクシャ=オリーン・モデルが、「水平分業(horizontal international specialization)」となります。前者は、先進国対発展途上国間の貿易のタイプですが、後者は、同じ技術水準同士の貿易のタイプです。確かに、いまでも垂直分業もありますが、今回の定理が導く結果からすると、水平分業の重要性が一層高まっていると考えられます。
優位性を生み出す源泉は、リカードモデルでは技術優位性でした。相対的にどの財の生産費が安価かであるかで判断します。これに対してヘクシャ=オリーンのモデルでは、1国内での資源の賦存量の大きさで優位が決まると考えます。
ここで、「ヘクシャ=オリーンの定理(Theorem of Heckscher-Ohlin)」とは、「相対的に豊富に賦存している資源をより集約的に利用した財に比較優位性があること」をいいます。
そして、貿易が行われることによって「生産要素の価格均等化(equalization of factor prices)」が起きるという結論を導き出しました。
そのロジックは以下の通りです。
A国は、労働に対して相対的に資本が豊富にあると考えると、貿易前は資本の価格は安いと考えられます。ここで、「資本集約財(capital-intensive goods)」をたくさん生産すれば、資本の需要が高まり、その価格は上昇します。他方、労働を豊富に持つB国は、貿易前には労働価格は安価であると考えられます。しかし、「労働集約財(labor-intensive goods)」を多く生産するようになれば、労働力の需要は高まり、労働価格(賃金)は上昇します。
これから分かることは、豊富にある資源を有効に活用して、それぞれ比較優位な財を生産し、貿易を通じて、各国の生産要素価格の均等化が実現すると考えたのです。