第16回 イノベーション採用とICT投資
ここでは、イノベーションの導入の速さとICT投資の関係を考えます。
イノベーションといっても、タイプによって、その採用速度も千差万別でしょうが、ここではICTにおけるイノベーションを考えることにします。ICTは、すでに述べたように、「GPT(汎用目的技術)」でした。いうまでもないことですが、AIもGPTです。
ここでも、前掲書の『消費者・コミュニケーション戦略』(有斐閣、2006)のなかに出てくるホフステードの「文化モデル」を援用しています。
不確実性の回避度が高い日本企業は、リスクを恐れていることはすでに述べました。イノベーションは、技術革新ですので、新しいICTはすぐには導入されないといえます。これに対して、米国企業は、チャレンジ精神が旺盛でリスクに対して寛容なので、未知のICTでもどんどんと採用します。
ここで、イノベーションの初期採用の速さとICT投資の関係を示しているのが、下記図表です。ここでも、日米は双対関係となっています。
この視点は今後論じますが、「個人主義(individualism)」と「集団主義(collectivism)」は不思議なくらい、リスク対応と反対の傾向を示しています。米国では、個人主義的傾向は91ポイントと大変に高い値なのですが、日本は46ポイントと比較的低い値となっています。逆にいえば、日本(企業)は集団主義が強い国といえます。
これとリスクとを合わせると、以下のようになります。
米国では、それぞれの企業が競争的にICTを評価して導入します。しかも、リスクを恐れないので初期採用が速くなります。それに対して、日本は、リスクを恐れるがために、どこかの企業が採用して実績が見えたら、自社も採用しようということになります。すると、イノベーションの初期採用は遅くなります。しかし、一旦、採用が本格化すると、横並びの関係にある企業は、他のライバル企業に負けまいと、一斉に採用が始まります。ということは、普及開始時期は遅いといえますが、普及スピードや普及率は高いといえます。
たしかに、今般の第三次AIブームをみても、日本企業の導入は欧米諸国に比して数年遅れましたが、2018年から、大企業はすべて、なにかしらの採用をしたといってもいい状況です。AIの採用が遅れた理由に、やはりリスク問題が背後にあるといえます。
まとめますと、イノベーションからみるICT投資においても、日本企業は、米国企業からすると、遅れ気味になることが分かりました。しかも、この分野は、次々と革新が起きるので、普及を待つ姿勢でいると、常にICT投資が遅れることも考えられ、それが日本企業の生産性向上の妨げになっていることも考えられるのです。