第22回 ICT効果論 その4 協調
前回は、産業内での競争とICT効果の関係を考えましたが、今回は、産業内での「協調」を考えます。
本サイトの「ミクロ経済学」コラムの第68回から第73回までは、ゲームの理論でした。このゲームの理論では、非協調ゲームと協調ゲームがありました。ここでは、産業内の企業が協調してICT投資をするとどうなるかを考えます。
日本の情報通信産業の黎明期において、日本政府は、この産業を日本の基幹産業に育てるべく、官民一体で支援しました。結果、80年代前半には、世界一といっていいほどこの産業は発展しました。
その後、官主導や政府の市場への関与は不公正であるとの諸外国の指摘で、あまり政府は産業支援をしなくなりました。一方、年配の方々しか記憶にないと思いますが、日本の均衡ある発展と新産業の創出ために、数々のプロジェクトを政府は打ち上げましたが、そのほとんどは失敗しました。たとえば、テクノポリス計画、頭脳立地計画等々。
日本の失われた20年(または30年)の間、アジアの新興国は、政府の主導のもと、飛躍的発展と遂げました。すべての発展途上国は、この経路をへて先進国に至るとすれば、日本は先進国として永い歴史があるので、その政府の役割や振る舞いは変更する必要があったといえます。しかし、これまでも述べたように、「日本問題」を克服すべく、いまこそ政府の産業ビジョンや支援を大いに期待したいと思います。その現代版が、「第四次産業革命」であり、「ソサイエティ5.0」です。すこし前には、「ユビキタス革命」などといっていたのはどうなったのかを考えると、いまの概念(コンセプトやビジョン)も、まだぼんやりとしている感は免れません。
ちょっとわき道にそれたのですが、ここでは、産業内でのICT投資と企業間協調の関係を考えていきます。
かつて、SCMの成功例としてよく取り上げられていたのは、米国の食肉関連企業のSCMです。米国も内食が伸び悩んでいたので、食肉関連の企業がみんなで利用できるSCMを開発しました。すると、飼育から小売りまで一貫したフォーマットで取引ができるために、取引費用が下がり、結果、小売価格が下がり、市場が拡大したという話は有名です。
日本は、産業ごとの団体組織があり、協調的に行動するといわれていますが、ICT投資では大企業の競合社が協力して、ICTを開発する例はあまり多くないといわれています。
それが、日本企業のICT受託開発の多さにもつながっています。
ゲームの理論を思い出すと、協調行動をとると、すべての企業の効用が上がる可能性はあるのです。しかし、日本はこのICT投資に関しては協調行動はみられないのが実情です。
ただし、企業の協調行動は、カルテルや暗黙の契約などにより、消費者に不利益がもたらされることもあります。そこで、日本では独占禁止法等で厳しく監視されています。
総括すると、前回の競争と今回の協調とのバランスが重要であるといえるでしょう。
かつて、日本企業の家電が世界市場を席巻しているときは、国内企業の協調はよくないといわれていましたが、日本企業が競争劣位となった今、世界の大メーカやスーパープラットフォーマーに伍していくためには、新しい協調が必要になったと考えられます。
日本の大手電機メーカは、官との適切な関係性のなかで、資源と技術における「競争と協調」で、今一度、世界一に返り咲いてもらいたいと願ってやみません。