第29回 e-商品論 はじめに
今回からは、「e-商品論」というサブタイトルで、新しい商品の可能性を考えていきます。
ひとことでいうと、「ニッチ」で「アテンション(注目)」のある商品とは何かです。さらには、それをどのように作るかです。それを考えるのが「e-商品論」です。
中小企業こそが、そのような商品の意義は大きいでしょう。
いろいろな経営用語に、「e-」をつけるのが今世紀の初めあたりから流行り、いまとなってはレトロな感じも漂っていますが、ネットビジネス関連を一言で表すという面で便利なので、ここでもこれを使います。
その第一回目として、マッカーシー(McCarthy, E.J.)の4Pを使って「はじめに」とします。
4Pとはあまりにも知られている用語なので、改めて書く必要もないかもしれませんが、確認のために書いてみます。4Pとは、「製品(Product)」と「価格(Price)」と流通チャネル「(Place)」と「販売促進(Promotion)」の頭文字をとったもので、「マーケティング・ミックス(Marketing mix)」の総称として知られています。なお、「マーケティング・ミックス」とは、「企業が標的市場においてその目的を達成するために利用する統制可能なマーケティング諸変数のブレンド(blend)」または「標的市場を満足させて組織目標を達成するために用いられる統制可能な諸変数の一群」(『マーケティング辞典』宮澤永光・亀井昭宏監修)のことです。ここでいう諸変数はたくさん存在しているでしょうが、それをもっとも絞り込んで一般化したものが、4Pといえでしょう。
図表も4Pの構成を示しています。
まず、ビジネスにおいて、もっとも重要なものは、商品・サービスであることは論を待ちません。取引される財が優れていなことには話になりません。しかし、製品の機能や性能、品質に、昨今、差がなくなりつつあることも事実です。実際は差がないということはないでしょう。同じメーカが作っているならまだしも、他社が作る以上、何かしら異なっているでしょう。ただし、その差異が、消費者に分かるのかといえば、必ずしもそうでもないでしょう。その商品のプロは弁別できても、購入してくれる人が認知・理解・評価してくれない限り意味がありません。日本製品は、世界一の品質をもっているのにも関わらず、世界市場では必ずしもマーケットシェアをとれないのは、日本人および一部の人々しか評価されないといわれて久しいのです。ただし、この日本人の認識自体、本当かどうかが近年怪しくなっています。たとえば、情報通信機器やAV機器などのスペックも新興工業国に負け始めているように思われます。
筆者は機能・性能・品質でも世界No.1であることは極めて重要だと考えますが、これは、「品質の経済学」としてまた後述したいと思います。
この商品の価値において、情報的価値(感性的価値や感覚的価値なども含む)のウエイトが高まっていると考えます。たとえば、デザインやパッケージやネーミングやブランドなどです。機能や性能などによる差別化が有効性を失いつつある中、製品差別化として、情報的価値の比重が高まるのは必然でしょう。
ここで商品と「e-」化との関連を少し考えます。
第一に、消費者の好みに合った商品にするためには、消費者の意識や選好を深く知る必要があります。マーケティング活動でいえば、「マーケティング・リサーチ」です。または、「消費者インサイト」の把握です。「マーケットの科学化」といってもいいかもしれません。ではどのように消費者の琴線に触れる要因の情報を集めていくのか。これ自体、「e-マーケティング」のもっとも重要な役割と考えます。筆者の研究グループが、数万人の消費者データから、様々な財の価値測定をしている理由のひとつです。この結果も今後明らかにしていきます。
第二は、「IoT(Internet of Things)」という言葉が象徴するように、「モノのインターネット化」が様々な商品で進みつつあります。この場合、消費者や利用者の様々な意識やバイタルサインや消費行動をログ化して、利便性や生活の質の向上を図ります。一方、その情報は、ビッグデータとして集められ、消費者行動分析に役立てられています。いいかえれば、「モノの情報化」といえます。
第三は、図表にもあるように、4Pのうちの他3つのPとの「統合化」であり、「シームレス化」であり、「ダイナミック化」です。商品がよくても、価格付けが不適切であったり、流通チャネルが不適合であったり、プロモーションがミスマッチであれば、商品はその本来の価値を有効に発揮できないでしょう。全体でうまく統合化され、最適化される必要があります。ビジネスは人間行動の所産ですが、人はそれぞれに得手不得手があります。企業も、技術能力が高いところはマーケティング力が弱かったり、また逆もあります。それを解消するのが組織力ですが、この組織および組織間の一体感やシームレス感がまた大きな問題となっています。とくに、規模が大きくなればなるほど、階層化とセクト主義が広がり、情報の一体化は失われているように思われます。それを解消するために、会議ばかりが増加して、非創造的な情報処理コストのみが増大します。図表でいえば、商品が最上にきて、プロモーションが最下層に位置している図となっています。しかし、先ほども述べたように、商品の差別化が困難になりつつある中、逆に、プロモーションやチャネルの重要性が増していると考えられます。これは、大局的にいうと、「サプライサイド中心主義」から「ディマンドサイド中心主義」への移行というマーケットの変化と軌を一にしています。産業論的いうと、メーカから小売り側に「情報覇権」が移行しているということです。また、4つのPがすべてダイナミック化しつつあることも重要です。ダイナミック化とは、変動化や動態化という意味です。商品でいえば、マスカスタマイズやオーダーメイド化でしょう。「e-」化によって、個々人の好みにあった商品がこれまで以上の低価格で提供可能になりつつあります。価格に関していえば、いわゆる「ダイナミックプライシング」です。価格が変わらないというのは、リアルな市場からすれば、実はナンセンスなことですが、知らず知らずのうちに価格は同一であると考えてしまいます。野菜や魚介類の価格が日々変わるように、すべての商品価格が変動してもいいのです。ただし、価格がある程度同じであることは、経済学的に意味があることが知られていますが、ダイナミックなプライシングを今一度再考すべきでしょう。さらに、流通チャネルとしては、ECに代表されるように、リアルとネットの融合が常識化しています。それを示す言葉が、「O2O」であり、「オムニチャネル」です。最後に、セールスプロモーションのダイナミック化です。とくに、ネットにおいては、ネット内の購買ログ、コンテンツログ、ネット経験ログがデータとして残ります。これをベースにすると、販促が最適化可能となります。このように、すべてのPがダイナミック化し、それが一体化しシームレス化すれば、個別企業の競争優位は実現できるでしょう。逆にいえば、できない企業は市場から撤退するするしかないでしょう。
この「e-マーケティング」では、4つのPとその情報化について、例によって、コツコツと書いていきます。
次回からは、商品の価値概念の多様性を考察していきます。
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追記
皆さんは、『妖怪人間ベム』(1968年)というテレビアニメをご存じでしょうか。中年の方以上でないと知らいないと思いますが、また、再放送されています。多くはないでしょうが、一定以上のコアなファンがいるのでしょう。筆者は、子供の頃に、TVで観て、衝撃を受けました。当時は、「科学主義」と「大公害時代」という世相を反映していたのでしょうが、一言でいうと、怪奇なキャラクターでした。それは、「人でも動物でもない異形の怪物」(Wikipedia)で、「人間になりたい」というセリフがものすごくインパクトがありました。CSで再放送されていたので、ちらっと観たのですが、いまでもそのインパクトはすごいと思いました。
ところで、最近のモノ作りは、まったく面白くありません。年のせいかもしれませんが、ワクワク感やドキドキ感がまったく感じられません。皆様はどうですか。良くも悪くも、「インパクト」があり、「アテンション力」のある商品をみたいのです。大企業が手を出せない「ニッチ」で、強烈な個性のある「注目度」抜群の商品ができれば、これだけSNSが広がっている時代、やはり売れるのではないでしょうか。さきのアニメの韻を踏むと、企業にとっては、「バカ売れしたい」ということになるでしょう。とはいっても、何千億円という売り上げにはならないでしょう。1桁、2桁小さくとも、中小企業にとっては、バカ売れでしょう。いまの大企業もかつては中小企業でした。
売れる商品、コンテンツを一緒に考えていきましょう。
ここでの言葉を繰り返すと、びっくりするような「怪物商品」をみたいのです。
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