第30回 e-商品論 その2 コトラーの見方
P・コトラー(Kotler, P.)は、世界でもっとも有名なマーケティング学者です。
その研究者としての経歴は永く、その中で、有名な書物を多数執筆しています。すべてのマーケティング研究者やマーケティング活動に従事しておられる方々は、氏の本を必ずといっていいほど読んでおられるでしょう。ですから、氏の考え方は、マーケティング論のいわばデファクトスタンダード(事実上の標準)だといえるでしょう。マーケティングの参照点といえるかもしれません。ただし、気をつける点は、長い研究史をもっておられるので、用語や概念やその重点が変化していることです。それは素晴らしいことです。この分野こそは、社会科学というよりは経営学の中でも、もっとも新しくかつ変化の激しい現象をとらえようとするからです。ここでも、3つのコトラーの製品に関する見方をご紹介します。今回はその第一回目です。
まず、コトラーは製品について、「3つの層」で考えるべきだといいます。
この3つの層とは、第一は、「製品の核」です。第二は、「製品の形態」です。第三は、「製品の付随機能」です。
製品の核とは、製品のもっとも基本となるベネフィットやニーズのことです。それは「束」で構成されているといい、製品ごとに、その束の組み合わせや内容は異なるということです。そこでまずは、中核となる便益の塊を確定することが必要となります。
製品の形態は、製品の実体や存在を示すものといえます。具合的には、特徴、機能、性能、品質、デザイン、ブランド、パッケージなどです。大きさや重さや形や色などの物質的な要素も入ると考えられます。一言でいえば、製品としての形を成すものです。
最後の製品の付随機能とは、アフターサービスやメンテナンスや保証や設置取り付けや配達などです。モノそれ自身というよりは、モノの運送や保守管理など全般を指します。
この3つの層がうまく構成されて、競争力のある製品になるとみます。
ただし、製品の種類によって、その構成要素の重要性は異なっているといえます。もちろん、その要素はフル装備された方が原則的にはいいでしょうが、その分、コストが上がります。と同時に、消費者のタイプや製品のタイプによって、その要素と重みづけはそれぞれ異なるといえるでしょう。
仕事柄、複写機をほぼ毎日使っているのですが、学校の機械はやたらと複雑な機能がついており、よくわからないことが多いのです。さらに、大型機ですので、起動するのに時間がかかります。とくにやっかいことは、すぐに紙が詰まるという点です。何か所もの部分に紙が詰まり、コピーができるようになるためには何十分もかかることがあります。その点、自宅にあるコピー機は、拡大と縮小および印刷の濃淡くらいしかできません。紙もA4判のみです。その代わり、スイッチをいれると5秒程度で立ち上がり、ほとんど紙が詰まりません。印刷速度も極めて速いのです。この一事をみても、利用者の利用目的や求める欲求が異なることで、製品の評価も異なるといえます。
今度はサービス産業の例をあげます。あるファーストフードの例です。このチェーン店は、安全や安心やファミリーの喜びなどのブランドイメージで急拡大しました。しかし、食材の問題から、かなり深刻な経営的課題を抱えていました。いまはそれも払しょくして、堅調に業績が回復しているようにみえます。その店の品質はかつてと比べると格段にあがっているように思われます。そこでまた行くようになりました。が、最近、気になる点があります。それは、待ち時間が長くなっている点です。調理時間はファーストフードのなかでもっともはやい方だと思いますが、注文時の時間が長くなっているのです。理由は、注文を受け、それを処理する時間が長くなっているのです。具体的にいうと、ポイントの確認や電子マネーによる支払いなどで時間がかかるのです。支払いの多様化で、お年寄りの方がよくわからないので、対応に時間がとられるのです。ファーストフードは、字のごとく、ファーストこそが価値です。それがそうでなくなることは大きな価値の損失です。今回の話でいうと、製品の核のひとつに課題が生まれているのです。
今一度、自身の製品を、まずはこの単純なフレームから見直すことも必要でしょう。つねに、課題は生まれているのですから、それを見逃すと大きな失敗につながるかもしれません。
次回は、コトラーにおける製品に関する2つ目の見方を考えます。