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総合システム論 第9回 システム1と2

 ここでは、2つの課題をまず提示して、それに対する意思決定を考えてみたいと思います。

 事案1:見知らぬ山深くに入り、山道を登っていく途中、不意に、前の草叢が音をたてた。

 事案2:あるスーパーに行くと、バーゲンセールをしており、皆が群がって商品を大量に買っていたので、自分も大量に購入した

 事例1の場合、たいていの場合、誰もが驚くだろう。そして、とっさに身構えるだろう。そうしないと、もし、猛獣や毒蛇がいたら、自身の命も危ないからである。しかし、何か獲物かもしれない。両方ともの可能性はあります。他の言葉でいえば、情報の不確実性またはリスクがある状況下です。前者は、損失で後者は利得です。行動経済学では、損失の方が利得よりも大きく評価されると考えています。なぜなら、このケースでも、損失の場合、具体的には毒蛇にでも咬まれたら、死ぬことすらあるからです。素早い判断と行動が最悪の事態を避けることになります。

 事案2においては、みんなが買っているし、早く買わないと利得を失うと考えます。とっさに欲が働いたともいえます。よくよく考えてみると、こんな商品を大量に買うことはばかげたことだと思うことも多々あります。これは、衝動的行動が損失を招いたことを意味します。

 この2つの事案のように、ヒトは、素早く、感覚的に意思決定したり、行動する場合がいいときと、じっくりと様々な観点から事物を評価判定することがいい場合があります。

 行動経済学者で、ノーベル経済学賞(2002年)に輝いた、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman,1934- )は、このような2つの異なる意思決定方法を、システム1とシステム2と呼んでいます。

 システム1とは、「自動的かつ高速に作動して、本人の努力なしで、意思決定する思考パターン」で、一般には、ヒューリスティック的思考と呼ばれています。事例1のような場合には、きわめて都合のいい判断が可能となります。

 これに対して、システム2は、「複雑な計算を頭を使って行うような努力の伴う思考」です。

 ヒトは元来怠け者で、ほとんどの日常生活の意思決定は、システム1で処理します。ルーティンワークにおける場合がその典型です。しかし、どうしても、よく考えなければならない時もあります。この場合は、システム2を使うということです。ただし、これには心理的負荷がかかりますので、なるべく避けようとします。場合によっては、専門家に費用を払って代行してもらうこともしばしばです。たとえば、税務処理や法務処理です。または、誰かに判断を安易に仰ごうとします。その間隙をついて、悪徳商売が横行します。やはり、面倒でも、常日頃から論理的かつ批判的に事物や現象を評価する訓練が必要であることをこれは示唆してくれます。

 システム1とシステム2をもっとも簡単にいうと、前者は、「感じるシステム」で後者は、「考えるシステム」ということができます。感じることもメリットとデメリットがあり、後者もそれが言えます。また、両者は相補的に作動させることで思考コストの削減と思考のメリットを増大させることもできます。

 これから、「2重システム理論」と呼ばれることもあります。

 この考え方も、暗黙のうちに、「思考の構造性」を採用しているといえます。

 次回は、デカルト的思考のもうひとつの対抗思考である「経験主義」を考えます。

    

 

 

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