note

日々の研究を記します。

  1. HOME
  2. ブログ
  3. チカ .K
  4. 総合システム論 第10回 経験的思考

総合システム論 第10回 経験的思考

 大陸的合理主義は、すでに論じたようにデカルトがその代表者でした。

 その考え方を再度述べますと、人間の精神を第一に考え、それを身体と分離しました。その精神のなかには、理性(知性)と感性(感情)がありますが、前者に特権的地位を与えました。それにたいして、パスカルなどは異を唱えたのですが、理性中心主義は、ヨーロッパの知の中核となり、近代ヨーロッパおよび世界の知として伝播していきました。

 ところが、大陸的思考に対して、イギリスは、「経験(experience)」の重要性を説きました。

 その代表が、ジョン・ロック(John Locke, 1632-1704)です。彼は、イギリス経験論の父と呼ばれています。主著に『人間悟性論』があります。

 彼の主張は、人間の心は、本来は「タブラ・ラサ」であり、いわば、白紙のような状態であるといいます。それが、成長するにしたがって、様々な経験をし、その経験が知識として頭の中に書き込まれていくという見方です。デカルトのように、生得的に観念が備わっているのではないとみました。

 よって、人間の精神の発達は、経験こそが重要であると説きました。

 ただし、この経験にもある種の構造があり、それは「感覚」と「内省」です。感覚器によって捉えられた様々な情報が刺激として頭に取り込まれ、感覚を形成します。それに評価や批判や判断を加えることが「内省」です。

 どちらにしても、大陸の「理性」に対して、イギリスの「経験」が加わり、人間の知が一層深まりました。これを他の言葉で言い換えると、前者は「論理知」であり、後者は「実践知」といえます。

 ところで、応用経済学のひとつとして、「経験経済(Experience Economy)」があります。これは、現代社会経済において、経験こそが大きな経済価値を作り出すというものです。アメリカのパイン&ギルモア(Pine Ⅱ & Gilmore)やシュミット(Schmitt)などが唱えています。

 たしかに、前者がいう「4E領域」は、もっとも成長している経済セクターとなっています。それは、Education(教育)、 Entertainment(娯楽)、 Escape(脱日常その代表は旅行)、 Esthetic(審美) などです。すべて、リアルな経験が付加価値の源泉とみています。そのためには、「経験ステージ」を構築し、「経験プログラム」によって、経験価値を深化・発展させると考えます。筆者も、拙編著『経験の社会経済』(晃洋書房)という本を10年位前に書きました。

 21世紀初頭の現代米国および主要先進国は、こぞってこの領域が経済発展の柱であるとみます。  

 しかし、まさに2020年3月、新型コロナウイルスが世界中で感染拡大して、この4E産業が大打撃をうけ、世界大恐慌化しつつあります。高度な経験は、人々の高度なサービスにかかわっているからです。

 一方で、この経験は、ICTでも実現(代替)できることもあります。たとえば、教育では、e-learningができ、娯楽では、5Gを活用した仮想ゲームができ、旅行業でも、バーチャル旅行も今後は流行るかもしれません。最後に、審美性も、心身の美容や癒しですが、家でおこなうことも一部ではできるでしょう。

 早い疫病の終息を期待します。

 と同時に、新しい働き方やモノづくりの再構築や新たなサービス提供の形を模索する転換点にたっているのかもしれません。 

 すこし大げさですが、2020年は、世界システムの大転換の始まりかもしれません。

関連記事