マクロ経済学第56回 効率的賃金仮説
賃金の下方硬直性の議論の最後として、「効率的賃金仮説(efficient wage hypothesis)」を考えます。シャピロ(Carl Shapiro)とスティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)が唱えた賃金に関する経済理論です。
労働者が熱心に働いてもらえば、企業業績は高まるでしょう。
では、どのような賃金水準を設定すれば、労働者は努力水準をより高めるだろうか。
図表を使って解説します。
労働者にとって賃金がもっとも重要なので、賃金が上昇すれば、努力を惜しまないでしょう。そこで、横軸に、実質賃金をとり、縦軸に、努力水準をとります。賃金水準が低いときには努力水準は低いのですが、それが上昇しはじめると、急に努力水準を高めるとみます。しかし、人の身体的・頭脳的活動にも限界がありますので、いずれは努力を高められなくなります。または、ある程度以上の賃金水準では、かえって努力の投入量(質)が減ってくることは知られています。そこで、「努力曲線(effort curve)」は、S字カーブ(ロジスティック曲線)の形状になると考えました。
ここで、実質賃金の1単位あたり(1円あたり)の努力水準が最大化するところはどこでしょうか。
図表では、(W/P)*の賃金水準の時に、単位当たりの努力水準が最大化します。赤線と努力曲線が接しているE点で、努力水準はe*点となります(傾きを示すαが最大)。
ここから分かることは、企業はある最適な賃金水準を発見していくべきだということです。
さらにいえば、人によって、形状は同じであっても、より高い努力曲線をもつ方もいれば、逆に、より低い努力曲線の方もいるので、それぞれごとの努力曲線を見極めて最適化を図るということでしょう。
問題は、人それぞれの努力曲線を本当に見極められるかです。それと同じことですが、実証できるかどうかです。さらには、賃金水準のみが人々の努力の程度を決めるとは限らないことです。本人にとって、やりがいのある仕事や自己成長が高められるような場合には、また異なる変数の努力関数となるかもしれません。