マクロ経済学第61回 投資理論について
投資理論には、いろいろなタイプがありますが、ケインズの投資理論は本コラム第18回、第19回ですでにお話ししました。
その場合、投資は利子率との減少関数でしたが、利子率のみで投資量が決定すると考えるのは、実体経済(実態経済)からすると、きわめて物足りないものです。なぜなら、投資の必要性がこの説では十分に説明されていないからです。
そこで、ここでは、代表的な投資理論をいくつか挙げて簡潔に解説します。
まずは、「加速度原理(acceleration principle)」とよばれるものです。
国民所得Yの増加分を△Yとすると、この増加分の一定の割合を投資に回すという最も基本的な投資理論です。
It = v・△Yt ・・・・・・①
(△Yt = Yt – Yt-1)
It:ある期の投資量
v:資本ストックと国民所得の技術的係数
この式では、投資量が国民所得の増加分の何割かを示すことは分かりますが、なぜ、投資量が決まるかは何ら説明されていません。
つぎに、「ストック調整原理(capital stock adjustment principle)」というのがあります。
これは新古典派の投資理論ですが、最適な投資ストックと現実の投資ストックの乖離(ギャップ)があり、それを埋めるために、投資が行われるとみます。
It = λ(Kt* - Kt-1) ・・・・・・②
It :投資量
λ:最適ストックと現実の調整をするスピード
Kt*: 最適資本ストック
K:現実の資本ストック
最適な投資ストック(Kt*)が、現実の投資ストックより大きい場合には、投資量が調整的に増加するとみるものです。
最後が、トービン(J. Tobin)の「q理論( Tobin’s q theory)」です。
企業の株式総額(Market Value)を、企業の保有する資本の再取得価格(Book Value)で割ったものがトービンのqです。より正確にいえば、分子は、「株式発行時価総額(Equity Market Value)」と「負債の市場価値(Liabilities Market Value)」の和で、分母は、「資本簿価(Equity Book Value)」と「負債の簿価(Liabilities Book Value)」の和です。分子をMとして、分母をBとすると、
q = M / B ・・・・・・・・③
となります。
Mは、企業の将来性や付加価値を生み出す力を示しているといえます。それが、設備などのB(費用)よりも大きいときには(qが1以上)、より投資を拡大させることが望ましいといえます。その逆に、設備の方が大きいときは(qが1以下)、過大な生産設備なので、縮小する必要があることを表しています。
この理論は、企業買収(M&A)の場合にも利用されています。
今日的な課題としては、Mが過大評価されており、Bが小さい場合は、q値はきわめて大きくなります。たとえば、ICT系のユニコーン企業は、現在の売り上げは小さいものの将来性が大きく評価される一方、物的設備は相対的に小さいのですが、その企業の将来性は確実なものでしょうか。単に、投機的理由で時価総額が高くなっていることもあるのではないでしょうか。
どちらにしても、不確実性が大きい場合は、期待値計算(割引計算)をすべきですが、場合によっては、大きく期待が広がり、割り増されている場合もあると考えられます。