マクロ経済学第62回 資料編その1
マクロ経済学の経済成長論および国際マクロ経済はまだ書いていませんが、この資料編の後に書いていきます。
その前提にもなるので、日本の様々な白書の資料を引用して、その解説を書いていきます。
もともと、マクロ経済学は、マクロ的統計データが重要ですが、これまでほとんど基礎理論ばかりを書いてきましたので、このあたりで、資料(事実)を確認したいと考えました。
その場合、2020年は、まさに疫病の世界および国内の蔓延で、社会経済に大変なダメージをうけたのですが、それは、数十年に一度の経済ショックなので、それ以前のデータをみることにします。
ここ何回かは、総理府の年次経済財政報告書(令和元年度)からの資料(図表)の引用です。
資料編その1は、日本の就業者統計に関するものです。
日本の総人口は、減少に転じていて、生産年齢人口も、減少しはじめています。ところが、図表1のように、就業者数全体では増加しています(2012年からの増加)。その理由は、高齢者と女性の就業者が増加しているためです。
その高齢者の増加理由は、企業の収益状況が改善していることとあいまって、人手不足となっているからです。女性の場合は、かつてはM字型雇用といわれていたものが、子育て支援策とも相まって、就労者が増加したとみられています。これらは、働きたい人がより働きやすくなったといえますので、全般的には望ましい労働環境になりつつあるといえます。
ただし、よくいわれるように、非正規雇用は不安定な雇用形態であり、賃金水準が低いので、望ましくないという見解があります。確かに、図表2からいえることは、非正規雇用形態が正規雇用形態の倍以上(2012年から2018年)伸びています。
図表3 非正規雇用の理由(65歳以上)
[総理府『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]
しかし、図表3をみると、その事情は必ずしも非正規雇用を否定するものではないように思われます。非正規雇用を選んだ理由のもっとも大きなものは、「自分の都合によい時間に働きたいから」(34%、2018年)で、二番目の理由が、「家計の補助・学費等を得たいから」(18.5%、同年)で、4番目の理由は、「専門的な技能等がいかせるから」(13.1%、同年)です。これに対して、明らかにネガティブな回答は、「正規の職員・従業員の仕事がないから」(8.7%、同年)となっています。しかも、その値はこの期間では少し下がっています。
これからみると、非正規労働者のなかで、高齢者と女性の割合が多いこととともに、多様な働き方としてむしろ選ばれているともいえます。
マスコミ等は、非正規労働者の負の面を大きく取り上げているような印象をもちますが、統計データからは、むしろ働き方の多様性の表れといえるでしょう。
最後に、本コラム第4回のライフサイクル仮説から、上記問題を読み解いていきます。
ライフサイクル仮説によると、働いているときに貯蓄をして、退職後は、それを取り崩して生活をするというモデルでした(勿論、この仮説でも複雑に設計することができますが)。今回の統計データからすると、高齢者の非正規労働者が増加していることからすると、一旦退職した後に、非正規雇用としてその後働くということです。その場合、自分の都合の良い時間で働きたいとか、家計の補助などで働きたいということです。または、技能を生かしたいからという理由でした。年金と退職金とある程度自由な時間に働くことによる所得で生活をするというのは、合理的な選択といえます。働かないと生きていけないという現実もありそうですが、大半は、働くことに意義を見出しているともいえそうです。