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マクロ経済学第70回 資料編9

 今回から、文部科学省の『科学技術白書』の資料を使って、科学技術と経済発展の可能性を考えていきます。

ただし、今回はさらにその基礎認識についてです。

 科学技術やイノベーションが、経済発展をもたらすことは、この100年間をみてもそのように思われます。250年前に、イギリスで産業革命が起き、その後の産業革命にそれぞれに、世代の名前も付けられ、現在および未来は、第四次産業革命の途上にあるという認識が流布しています。

 日本もおよそ150年前の明治維新後、富国・殖産興業に邁進し、1970年前後に、世界第二位のGDPをもつ経済大国となりました。

 いま、マクロ経済学を書いていますので、すこし古いテキストも読み返しているのですが、その本のなかにあった資料ですが、1994年あたりの日本の一人当たりの国民所得は、群を抜いて1位だったのです。もちろん、あのバブル経済の影響も多大だったのですが。その後、日本の経済成長はぴたりと止まり、マクロ経済学67回にみたように、OECD加盟国で一人当たりのGDP(労働生産性)は加盟国36か国中21位となっています。2015年から2018年の間での労働生産性成長率はマイナスとなっています。本当に、失われた30年です。

 皆様はこの事実をどのように思われますか。

 何が問題だったのでしょうか。

 すぐに、人口が減少し、少子高齢化率が世界一であることが原因であるということが頭をよぎりますが、本当でしょうか。

 今日の話でいうと、科学技術やイノベーションが経済発展をもたらすのであれば、少しばかりの人口の減少や徐々に高まる高齢化に対抗できるはずです。

 このコラムの資料編後には、経済成長論の話をしますので、その前振りとして、科学技術に関する白書の資料も目を通しているのです。

 マクロ経済学は、マクロ経済データから、経済理論を組み立てていますが、現在では、ミクロ経済学に基礎づけられたマクロ経済が主流化しつつあるといってもいいでしょう。このような考え方からすると、図表1のような予測手法はちょっとクラシックなマクロ経済学になじむようにも思えます。

  図表1 主要な予測手法とその概要

[文部科学省『科学技術白書令和2年度版』より引用]

 まず、図表の1番目にきているシミュレーション技法がまさに大規模な計量経済学的発想で構築されています。数千本の数式をコンピュータで計算させるという手法は一見もっともらしいのですが、いまだ完成したという話は聞きません。日本でも1億2千万人以上の人々が暮らし、400万社程度の企業があり、日々、創業と廃業、創造と破壊が起きている日本経済の実像が把握できるのでしょうか。

 これに関しては、マクロ経済学のなかでも、「ルーカス批判(Lucas Critique)」というのがありました。これは、人々の経済や政策への期待が個々人で異なっているので、数式による分析には限界があるという指摘です。

 筆者は情報経済論が専門ですが、情報の観点から見ても、複雑な数式によるデータ処理の限界はすぐにわかります。まず、時々刻々、生起するデータ・情報の入手時期のタイムラグです。IoT化がますます進み、ネットワークが普及すればするほど、情報は生まれ、ビッグデータに流入します。つぎに、その巨大かつ変動し続けているビッグデータをどう処理すのかです。唯一の解は、AIの導入ということでしょうが、どこにも、統一化されたデータベースはなく、個別主体がそれぞれの課題解決のレベルで適用しているのが現状です。つぎに、経済学は社会経済の理論的認識と理解のうえで、制御ないしはマネジメントのための政策立案のためにあるといえますが、先の情報の入手ラグ、判断評価ラグがあるなかで、政策効果のラグもあります。その成果があったかどうかという認識のためにも情報がまた必要なのです。

 上記の情報問題は、結局は、複雑な社会経済実態の変化に対応できていないのです。当初は、大型計量経済モデルのパラメータの変化で対応できると考えていたのでしょうが、説明変数の組み合わせや変数それ自体の生成や導入がコンピュータ自身ができない限りは、つねに変動している複雑系開放経済はとらえきれないというべきでしょう。

 これと対をなすのが、図表のシミュレーション手法以下に書かれている手法です。一言でいえば、専門家の読み込みや展望や洞察といったものです。

 この場合、行動経済学的観点からすると、人はどんなに専門家であっても、むしろ専門家であるからこそ偏見やバイアスに陥りやすいともいわれています。この主要な要因は、ヒューリスティックスといえますが、他者性や時間選好性も大いに関係しています。

 話はちょっと変わりますが、筆者の研究室では、昨年だけでも、2万人以上のアンケート調査をしています。その場合に、アンケート自身(質問の背景、質問の提示の仕方、質問フレームなど)がバイアスの塊ともいえるので、バイアスを読み込んだアンケートをするように研究室の大学院生には話をしています。筆者はそれを「バイアス戦略」と勝手に呼んでいるのですが、バイアスのかけ方によって、期待値の測定をしようとしています。

 また、話は元に戻りますが、経済成長を考える場合、いまのマクロ経済論の到達点は、内生的成長発展モデルでしょう。

 この理論も、また話をしていきますが、一言でいうと、アイデアや知識や技術などの知的資本(人的資本)が経済成長を持続させるといいます。

 そこで、問題ですが、この日本では、進学率も上がり、研究開発も大学や各研究機関や政府自治体や企業も鋭意推進しているのですが、なぜ、この30年間、成長が止まったのでしょうか。

 これらの原因が簡単に見つかり、最適な理論と政策解の発見はまだまだ長い模索が続くでしょうが、千里の道も一歩からの心持でぼちぼち考えていきたいと思います。

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