総合システム論 第4回 再定義の意味
定義は、正確なほどよいのが原則でしょう。
前回も述べたように、概念や用語は言葉で定義するので、本来的に多義かつ不確定性があるので、不正確な場合は、さらにコミュニケーションを阻害するからです。
しかし、もし、再定義または新概念・新用語が生まれないのならば、そのような世界は、ほぼほぼ、終わった世界でしょう。譬えて言うならば、「冷たい世界」であり、静止した世界でしょう。逆に、新しい言葉や用語や再定義がどんどんと創造される世界は、「熱い世界」といえるでしょう。
ここでは、次の数式(命題)を導入します。
X = Y ・・・・・・①
X = Y’ ・・・・・②
Z = A ・・・・・・③
Xは、言葉(概念または用語)とします。①式でのYは、定義です。よって、「XはYである」という命題を示しています。
しかし、時代の変化や環境の変動により、Yという定義がふさわしくないこともあります。この場合、YをY’に変えるということがあります。たとえば、マーケティングという概念は、AMA(American Marketing Association)によって、何度も定義を公式に改訂しています。これによって、マーケティング概念は、その時代にあった内容や意味となります。
このように、新しい商品や事業やビジネスや市場を創造したいのならば、定義を「再定義(redefinition)」すればいいのです。ただし、それが認められ、世の中に定着するかは、市場(市民)が決めるのですから、受け入れられなければ、それまでのことです。これが、②式です。
さらに、③式のように、用語や言葉自体を変えることも考えられます。XをZにするのです。
たとえば、有名なコピーライターだった糸井重里氏は、「普通の生活」を「おいしい生活」と変えました。この言葉は、瞬く間に世間に受け入れられ、その後、「おいしい仕事」や「おいしい思い」や「おいしい関係」などという言葉が続きました。おいしいという食べ物にしか使えない形容詞を使うことによって、社会生活を変えた、またはそのように理解できるようになったのです。このZとなった場合、定義は、原則、YではなくAという異なるものに変わるでしょう。
新しい商品、事業、市場を生み出すために、意図的に戦略的に、新しい定義や新しい用語を創造することは、熱い世界を作ることには欠かせないと考えます。
一言でいえば、「戦略的再定義思考」とでもいえるものです。
ただし、では、どの程度まで変えることができるのでしょうか。次回は、「再定義の方略」を考えてみたいと思います。