マクロ経済学第24回 貨幣の定義を巡って
「貨幣(money)」とは、なんでしょうか。貨幣の定義を確認したいと思い、辞書やマクロ経済学の標準的なテキストを確認したところ、はっきりとは書かれていないことが分かりました。
たとえば、金融広報中央委員会のサイト内になる「金融用語解説」では、「貨幣は商品やサービスの円滑な交換や流通のための物体・媒介物という意味が強い」と述べていますが、厳格な意味での定義ではないといえます。
また、英語の辞書として定評のある、『LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH』のmoneyの説明では、“pieces of metal made into coins, or paper notes with their value printed on them, given and taken in buying and selling”と書いていました。これも貨幣の手段性が前面に出ている表現です。
研究社の『NEW ENGLITH-JAPANESE DICTIONARY』のmoneyの説明では、「金銭、通貨及び紙幣」とあります。これは定義というよりも、貨幣の物質的側面の指摘であり、同義語反復といえます。もし、これが定義と考えると、いわゆる、電子マネーは、マネーではないことになります。ただし、この問題自体、大変な議論がありますので、ここでは割愛します。
さらに、『マンキューマクロ経済学Ⅰ入門編』では、貨幣とは、「取引・決済に即座に使用できる資本のストック」であるとします。これは、貨幣のマクロ経済学的な定義として、肯定されますが、貨幣の本質的定義とも違うように思われます。
また、『スティグリッツマクロ経済学』の基本用語では、貨幣とは、「交換手段、価値の貯蔵手段、および計算単位の役割を果たすもの」と書いてあります。これは、明らかに、貨幣の手段性に着目したものですが、これもまた貨幣の機能(手段)であり、定義とは違うでしょう。
よく利用させていただいている都留重人編の『経済学小辞典第2版』でも、明確な定義は避けています。ここでは、貨幣の歴史性が強調されています。
まとめてみると、貨幣とはきわめて歴史的産物であり、なんらかの商品の交換物であったのですが、経済社会の進展によって、その存在形式が変遷していることもあり、あまり積極的な定義を試みないということかもしれません。
本来、きわめて日常的な何かを簡単な言葉で表現することは困難が常に生じます。かつ、経済学的には、手段性や種類(範囲)を決めれば事足りるので、あえて、貨幣の本質的定義には触れないということのようにも思われます。
次回から、貨幣の手段性や目的や種類について、マクロ経済学的にみていきます。