AI経済学 第7回 拡張
経済領域において、生産物(付加価値)をもたらすものは、資本と労働という2つの生産要素です。
AIはこの生産要素をどのように、増大または拡張できるでしょうか。
総務省『情報通信白書令和元年度』(もとは暦本純一他著「東京大学大学院情報学環ヒューマンオーグメンテーション学」に基づく)によると、ICTによる4つの「人間拡張(Human Augmentation)」を上げています。
その第一は「身体の拡張(Physical Augmentation )」で、第二は「存在の拡張(Existence Augmentation )」で、第三が「感覚の拡張(Perceptional Augmentation )」で、第四が「認知の拡張(Cognitive Augmentation )」です。
第一の身体の拡張は、分かりやすいと思います。体にもともと障害を抱えていたり、病気や事故や高齢化で体の一部が損傷することは人生のなかで起こりうることです。それを補助・支援してくれると「生活の質(QOL: Quality of Life)」が高まります。そのような機器の支援によって働けるようになれば、または働きやすくなれば、労働者にとって救いの手となります。第二の存在の拡張は分かりにくいのですが、時空を超えて、共同で作業ができるようになるとのことです。様々な遠隔活動が可能となります。第三の感覚の拡張は、五感の能力を高めることです。たとえば、加齢による視力や聴力の衰えは自然の摂理ですが、その衰えをカバーできれば、第一の拡張と同じことが実現できます。第四の認知の拡張は、様々な人間の認知機能の向上を可能にすることです。学習や思考を高めるための支援や補完もこの中に入ります。AIは、ここにこそ大きな意義があるともいえるので、今後、この議論は何度もでてくることになるでしょう。
Gartnerによると、AIによるオーグメンテーションは、2021年には、2兆9000万ドルのビジネス価値を生み出すと予想しています(「Japan.zdnet.com」による)。
経済学としては、最初に述べたように、人的資本の強化・増強と同じ意味をもちます。一人一人の労働者の生産能力を高め、リスクを減らせれば、日本のように生産年齢人口が減っても、一人当たりの生産力は一層拡大します。人が働くあらゆる行為や場面で価値の向上が見込めます。
ただし、そのためには投資も必要となりますので、オーグメンテーション費用以上の付加価値の増大が必要となります。それは技術開発と普及による低廉化と労働者の適応能力の獲得が前提となります。