第10回 逆選択
レモン市場論で出てくる「逆選択」(adverse selection)を考えてみます。
これは、本来は、保険用語であるということは知られていますが、この概念は様々な学問領域に転用されてます。
たとえば、進化論的な場合はこうです。
進化論でいえば、いわゆる弱肉強食によって、適者が生存するとみます。商品でも、結局は、優良な商品が市場で生き残るとみられるのですが、レモン市場が生まれますと、不良品ばかりとなるので、逆の進化となり、これを逆選択といいます。
このことは、すでに何回か論じてきましたので、ここでは、情報の非対称が、取引者同士にないか、買い手の方が情報を多く持っているような場合を考察してみます。
まず、売り手と買い手、双方に、情報が同じようにない場合はどうなるでしょうか。この場合でも、両者ともに、ほとんど情報がない場合と、両者ともが同じ程度持つ場合で異なるでしょう。前者では、取引がまったく進まないか、一層、乗ってみますかという場合もあるでしょう。あまりにも、リターンが大きそうな時や、未来が大変に明るい場合です。進まない時は、中止か、ウエイト(待ち)の状態となるでしょう。後者の場合は、まさに完全競争市場の状態ですから、取引は行われます。
ここで、買い手の方が情報量が多い場合はどうでしょうか。
本当は優良品であるのに、売り手はあまり評価できず、買い手がその良さを知っていて、安く買い取られる(買いたたかれる)こともままあることです。先のたとえを使うと、小さな蛇を飲み込む大蛇のような存在の場合です。
一般の消費者としては、このような大蛇型消費者が知り合いにいれば、心強いでしょう。いない場合は、売り手にいるように見せかけるのも一つの手です。実際、弱者が、強く大きな権力者や権威者の名前を出す行為が少なからず見受けられます。単なる空威張りではなく、脅しの効果もあるでしょう。
どちらにしても、情報を巡る戦いが、至る所で繰り広げられているといえるでしょう。
現代ビジネスを考える場合、とくに、ICTビジネスでは、この逆選択の知見から、有用なビジネス上のヒントが得られるでしょう。
たとえば、同業者の非対称性は、どんどんと破っていきます。ネットなどで、業者のもっている様々な情報を公開していくのです。漫然と生きている業者は、消費者と対等な情報量となり、うまみが得られなくなります。一方、自社は、徹底的に市場創造を行い、新しい商品を生み出し続けます。その差異情報で消費者を引き付けていきます。
逆選択の逆の場合、すなわち、「逆・逆選択」はどうでしょうか。
考えてみてください。夜も眠れなくなりますから。