第23回 ICT効果論 その5 生産要素の関係性
ICT資本やAI資本も、資本の一種です。
これはミクロ経済学のコラムで論じた生産関数論(第55回など)の応用例として考えることができます。
ミクロ経済学では、もっとも基本的な生産要素として、資本と労働力を考えました。資本は、生産手段のことで、労働力以外のすべてが入ります。ですから、ハードウエアやソフトウエアなどの区別は問いません。ここでは、ICT/AI資本以外の資本がこの中に入ると考えています。
ICT/AI資本の実体も、一見簡単なようにみえますが、実はかなり複雑です。たとえば、コンピュータやPCや通信機器やデジタル関連機器などのハードウエアがまず考えられます。ソフトウエアとしては、各種プログラムやOSや応用ソフトなどが入ります。さらには、様々なコンテンツもこの中に入れることができるでしょう。また、インターネット内の膨大な定型・非定型データもこのなかにいれることができます。さらには、企業内のICT系のノウハウや知的資本もはいります。
これらが、直接効果を生み出すこともあるでしょう。図表1では、真ん中の矢印の部分です。たとえば、あるSNSまたはSMで、視聴者数に応じて収入がいるコンテンツであれば、そのコンテンツを制作しVODやライブ配信で、それにかかる費用は比較的に容易に算定できます。それから得られる収入から費用を引けば、利益が分かります。ICT資本でも、費用対効果がはっきりしているものもあります。
問題は、図表1の他の資本と組み合わせたものや、労働力と一体となって効果を生み出す場合は、既存の生産要素が生み出した効果なのか、ICT資本の効果であるのかは、判別は容易ではありません。さらには、企業では、資本と労働力自体も一体として生産にかかわり、そこに様々なICT資本が漸次導入されて効果を生み出すので、追加当たりのICT資本の効果を確定することは簡単なことではないのです。
さらには、労働力の場合、ICT教育や習熟度に依存する面が大きいといえます。相当陳腐化したICT資本(装置)であっても、上手に使うことによって、費用当たりの効果が最大化することもあるでしょう。逆に、最新の機器やソフトウエアを導入しても、使い方が未熟であれば、学習コストこそかかり、効果が全くないことも十分に考えられます。もちろん、リスクも想定しなければなりません。
もっというと、図表2のように、ICT資本の生産力曲線が不分明といえます。
ICT資本でも、さきにあげたように、様々なものがあります。なので、図表2のようにロジスティック曲線のような形状のものもあるかもしれません。もしこのような形状である場合は、最初のICT投資による効果はあまりないのですが、その投資がすすんでいった場合の一単位の追加投資は、転換点までは「限界生産力(MP)」が高まり続け、その後は、逓減していきます。
労働者の成長曲線とICT資本が寄り添うとすると、このような形状の可能性はあるでしょう。もちろん、個人差がきわめて大きいために、同じ成長曲線でもその曲線は無数に描けるといえます。
さらに、さきにも述べたように、ICT資本は様々なものが漸次投入されるので、それぞれの投入量とビンテージが異なり、結果、効果は一層複雑なものになるといえます。