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第5回 非対称性の世界

 情報経済論では、情報の不確実性と非対称性の経済世界を記述します。

 非対称性とは、英語では、information asymmetry といいます。直訳すると、「情報の非対称性」です。これは経済学の一領域なので、経済現象や経済問題における情報の偏りがもらたす現象とその課題解決を考察します。

 経済学の首座は、やはり、ミクロ経済学です。これは、経済学の父であるA・スミス以来の経済理論を踏襲したもので、250年の歴史があります。とくに、ミクロ経済学は、別名を、「価格の理論」ともいうように、自由市場での価格付けを基礎に据えています。とくに、完全競争市場が、「資源の最適な配分」を可能とすると考えられており、理想的市場と措定します。

 この理想的市場が実現するためには、いくつかの条件が満たされなければなりません。

 研究者によってその条件は多少異なりますが、おおむね、次の4つの条件が挙げられます。

 第一は、多数の売り手と買い手が存在するということです。しかも、それぞれは、市場の価格に影響力のない存在であるということです。そのような状況は現実にはほとんどないでしょうが、それでも、青果市場や水産市場の取引などはそれに近い状況かもしれません。もともとは、まさに現実の市場の観察から理論化を図っていたのですが、永い学問史のなかで、理論経済学として発展していったので、いまは、必ずしも現実の現象を対象としていません。それが、現実には役に立たない学問であるという揶揄が生まれる背景ですが、純粋な規範的論理的理論体系も必要なので、ここではあまり深く考えないでください。

 第二は、市場の参入と退出が自由であるということです。逆にいうと、市場に対する規制が全くないということです。実際の仕事や製品やサービスについてまったく規制がないということはないでしょう。ここではないという前提で理論化を図ります。理由は、上記と同じです。

 第三は、商品の同質性です。まったく同じようなモノやサービスの取引を考えます。この世の中に、まったく同質なモノはないでしょう。ブランドや売り手に対する信頼や関心がないというのも考えられませんが、同質なものがあるとします。

 第四が、市場に関する情報の十分性(完全性)です。これが、ここで話をする「情報の非対称性」にかかわっています。

 ほとんどの市場において、売り手の方が買い手よりも商品情報を持っていると考えるのは現実的です。買い手は、その商品の専門家ではないので、商品の性能や機能やコストや在庫情報や商品の将来性や技術動向などは知りません。いくらインターネットが発達したからと言って、特定の市場や商品に関して、素人である買い手は、情報が売り手よりは少ないでしょう。さらには、個別の業者の商品が優良品か不良品かは、「特別な情報(秘密)」(個別・特殊情報)なので、知りようもないのです。もっというと、商品の種類にも依存します。商品の分類は、いろいろありますが、ここでは、P・コトラーも認めている分類を考えてみます。彼は、商品には、探索財と経験財と信用財があるといいます。探索財は、自身で調べればその良否が分かるような財です。経験財は、経験しなければわからないような財です。信用財は、経験しても、究極的には、良否が分からないような財のことを言います。探索財はいいにしても、経験財は経験するまでは分からないということです。ですから、経験して、損をしたということがよくあります。いわんや、信用財は、経験しても、結局は本当のことが分からないのです。たとえば、弁護士の弁護活動や医療行為などです。いろいろと評判を人に聞いたり、ネットで調べますが、本当のことは分からないのです。

 このように、情報の非対称性があるときには、完全競争市場が不完全にしか成立しません。よって、資源の最適な配分はできないのです。これを、「市場の失敗」といいます。これについては、また後日詳述します。

 この点からも、情報経済論は、ミクロ経済学の修正または補完理論といえます。ただし、近時のミクロ経済学の教科書には、この情報の非対称の章が設けられています。それは、先の「市場の失敗論」のひとつとして取り上げられているのです。

 情報経済論は、情報が不確実か、非対称性があるときに、どのような経済現象が起きるかを考えます。つぎに、少しでも、その現象の課題を克服する政策や方略を考えます。

 次回は、いくつかの事例を通じて、どのような財に、どの程度、非対称があるのかということと、ICTやインターネットがその非対称性を解消するにはどうあるべきなのかをみていきます。

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