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第76回 リカードの比較優位の定理

 国際貿易をするとなぜ利益を得られるのかを、リカード(D. Ricardo)の「比較生産費説(theory of comparative costs)」から説明します。

 ここでは、2国2財1生産要素モデルをつかいます。さらには、生産要素は、労働力のみとし、その国際間移動はないものと考えています。

 この2国で、それぞれが「比較優位(comparative advantage)」な財に生産を特化して、貿易をすると、双方ともが利益を得るとともに、世界全体の生産量も増えます。

 「比較優位の原理(theory of comparative advantage)」とは、「それぞれの国において、相対的に低い費用で生産できる財の生産に特化し、その財を輸出・輸入することで、貿易の利益を実現する理論」のことです。

 すこし分かりづらいので、図表1の数値をもとに考えていきます。図表1は、生産に要する2国の労働量の比較表です。

 ここでは、A国とB国があり、それぞれX財とY財を生産していることを示しています。表中の数値は、それぞれの財を1単位分作るのにどれくらいの労働力(数)を要するかを示しています。たとえば、A国は、X財を2人で作ることができ、Y財は1人で作ることができるということです。同様に、B国では、X財を4人で、Y財を8人で作ります。ここで、自国の他の財の労働者数で割った値が、比較生産費で、A国では、X財は「2」、Y財は「0.5」です。B国では、X財は「0.5」で、Y財は「2」となります。そこで、A国では、比較生産優位な財はY財ということになり、B国では、X財ということになります。

 なお、図表1の労働人口は、それぞれの国の総労働人口の合計を示しています。A国では3人でB国は12人となっています。これはそれぞれ1単位を生産することを考えているためです。

 比較優位の対概念は、「絶対優位(absolute advantage)」です。図表1でいえば、A国は、X財においてもY財においても、B国より少ない労働力で生産ができますので、A国は、絶対優位を持つといいます。ここで重要なことは、A国が2財とも効率的に生産できるからといって、両方を生産することではないということです。より生産効率のいい財に特化することが重要なのです。ここでは、A国はY財のみを作り、B国はX財のみを作ります。これを「完全特化(complete specialization)」といいますが、リカードが採用しているモデルです。

 さらに、貿易が行われる前の生産量は、A国ではX財を1単位、Y財を1単位、B国もそれぞれ1単位ずつ生産しています。両国を合わせると、4単位の生産量です。これに対して、それぞれの国が先のように完全特化すると、A国は、Y財を3単位、B国ではX財を3単位できるので、計6単位となり、世界的に生産量が拡大していることが分かります。

 つぎに、いかなる条件の場合に、貿易が実現するかを考えます。

 このときに、前回お話をした生産可能性曲線を導入して考えます。

 ただし、前回の生産可能性曲線は、原点に対して凹の形状でしたが、ここでは、直線で考えています。

 A国の生産可能性曲線は、図表1にもとづいて、以下の①式のように定式化できます。

 2X + 1Y = 3   ・・・・・①

 同様に、B国は、②式のようにできます。

 4X + 8Y = 12  ・・・・・②

この生産可能性曲線(PPF)は、すべての資源を使い切って最大どれだけの財が生産可能かを示す曲線(直線)でした。ここで、どのくらいまで生産できるかは、それぞれの国の収入に依存すると考えます。

 そこで、その収入線(予算線)を導入します。

 X財の価格をPxとし、Y財の価格をPyとし、収入をIとして、収入線を定式化します。ちなみに、ここでの財の価格は、競争的な市場を想定しているので、国際的価格です。

 I = Px・X + Py・Y   ・・・・・・③

 ここで、貿易が可能となる条件を探ります。

図表1 生産に要する労働量比較表

 図表2では、A国の生産可能性曲線を赤い線で示しています。それは、①式を表しています。ここで、X財に特化した場合は、1.5単位です。Y財に特化した場合は、3単位です。これに、先の収入線を考えると、赤い破線のようになります。赤い破線Ⅰは、生産可能性曲線(ここでは、「-2」の傾き)よりも傾きが小さい(緩やかな)場合です。この場合は、最大の生産は、Y財を3単位生産することです。

図表2 A国に関する生産可能性曲線と予算線

 同様に、B国のそれを示しているのが、図表3です。B国の生産可能性曲線の傾きは、「-0.5」です。収入線の傾きがそれよりも大きいときは、赤い破線Ⅱのようになり、その最大の生産は、X財を3単位生産する場合です。

 これをまとめると、相対的価格比と生産可能性曲線の傾きが、

 0.5 < Px/Py  < 2

という条件を満たしたときに、貿易が可能となることが分かります。

図表3 B国に関する生産可能性曲線と予算線

 これらをまとめると、A国は、Y財に特化して生産をして、B国は、X財に特化して生産をすることが望ましいことを示しています。  

 このリカードモデルは、2国間に、技術格差がある場合でした。すなわち、「垂直分業(vertical division of labor)」を考えていましたが、水平分業はどう考えればいいのでしょうか。

 それが次回のテーマです。

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