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マクロ経済学第66回 資料編その5

 今回は、マクロ経済学の国際マクロ経済学につながるデータを考えます。

 日本は、かつては輸出大国などと呼ばれていましたが、いまは、そのGDPに占める輸出額はかなり小さくなっています。

 いわゆるバブル経済後、輸出主導型経済から内需主導型経済へと転換したのですが、今後は、今一度、輸出比率を増やすべきである理由を考えます。

  

          図表1輸出企業に関する統計

 [総理府・『年次経済財政報告書・令和元年度』より引用]

 図表1の(1)は、輸出がきわめて少数の企業の出荷額から成り立っているということを示しています。上位1%の企業が61%もの輸出を担っているとのことです。これだけ日本製品は世界で人気となっているのに、少数の企業がそのほとんどの輸出額を占めているのです。勿論、日本が世界に誇るトヨタなどがきわめて大きな輸出金額であるとはいえ、もっと多くの企業、とくに中堅中小企業が輸出金額を増やせるように、政府も大いに輸出を奨励すべきです。

 やっと「GNP(Global Niche Top)」という考え方が生まれ、政府の支援により、中小企業の世界市場進出の支援が始まりましたが、あらゆる産業・業種で、いまこそ、最大限の支援をすべきでしょう。

 図表1の(2)は、輸出をしている企業のアドバンテージを示しています。まず、「TFP(Total Factor Productivity)」が、そうでない企業よりも勝っています。つぎに、雇用者数も大きくなっています。また、賃金水準も1.2倍となっています。これはある意味当たり前で、世界に商品を輸出できているということは、より大きな市場で競争しているので、その勝者には見返りも大きいということでしょう。一言でいえば、競争優位であるので、すべての指標で高いパフォーマンスを上げているということでしょう。ただし、国内しかないニッチな商品も多数あると思われます。そのような商品は、世界のなかで唯一無二なモノもあり、経済学でいえば、市場は小さくても、独占または独占的競争的なモノもあると考えます。

 図表1の(3)は、これまで簡潔に述べてきたことを裏付ける指標です。やはり、非国際化企業よりも、輸出型企業の方が、TFPが高くなっているのです。なお、TFPは、コップダグラス型生産関数を採用して、それを対数化して微分して求められているということです。

 非国際化企業よりも、国際化企業、さらには、輸出も「対外直接投資(FDI: Foreign Direct Investment)」もやっている企業がもっとも生産性が高くなっています。

 本報告書では、3つの貿易理論を考えており、第一が、古典的な貿易理論です。これに関しては、当コラムミクロ経済学第76回、77回で議論しています。第二が、「新貿易論(New Trade Theory)」と呼ばれるもので、クルーグマン(Paul Krugman)が提唱したものです。内容を簡単に述べると、同じ産業内でも商品が多様な場合は、消費者の選択が広がることで効用が高まり、輸出が促進されるとみます。また、規模の経済も働くと考えます。これに対して、本報告書は、「新新貿易理論(New New Trade Theory)」と呼ばれる「メリッツモデル(Melitz model)」にもとづいて検討したと述べられています。この理論を簡潔に述べると、同じ産業内でも異なる生産性をもつ企業が存在しており、生産性の高い企業が輸出をするというものです。その結果、その企業の利潤が拡大し、労働者もそのような企業に移転していけば、ますます高生産性企業は栄え、そうでない企業は淘汰されるということです。そのことが全産業に起きれば、一国の生産性は上昇するとみています。

 ただし、財の種類によっては、新貿易理論も十分に説得性をもつといえます。たとえば、日本酒を例にとると、日本酒はアルコール類のなかでは日本が独占的競争だと考えられます。その場合、大資本をもつメーカが競争優位をもつともいえますが、地方の小さな酒造メーカでも、個性的で差別化ができている場合は、十分に生き残りは可能であると考えられます。輸出でも、越境ECであれば、大した固定資本もかからないからです。

 

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