第53回 独占的競争
市場論の最後の理論として、「独占的競争(monopolistic competition)」を考えてみます。
この理論は、現在の大半の商品の価格づけの理論といえます。
といいますのは、現代の商品は、何かしら他社製品と比較して、製品の差別化がなされているからです。また、ブランド名がないという商品もほとんどないでしょう。さらには、顧客との関係性や販売・提供方法、メンテナンスなど、ほぼすべての企業は異なっているでしょう。この意味では、それぞれの商品には、それを好む顧客がついていると考えられるので、「独占性」があるといえます。
しかし、似たような商品を生産している企業も多数存在している市場ともいえるので、「競争性」もあります。
結果、独占性と競争性の要素を両方もつ市場といえます。
この場合、短期均衡と長期均衡を用いて説明することがほとんどなので、ここでもそれを使うことにします。
図表1は、独占的競争の短期均衡を示しています。短期的には、製品の差別化によって、自社には独自の消費者がついています。自社の需要が高いのですから、需要曲線(D)は、右上方にあります。まさに、独占的に、利潤を獲得している状況です(赤い破線の四角の部分)。
しかし、長期的には、他社が類似の商品や、さらにはそれを上回る品質やデザインのものを市場に投入してきます。すると、自社が短期的にもっていた需要は、他社に奪われます。結果、需要曲線(D)が、平均費用(AC)曲線と接するところまで下がってきます。この場合、利潤最大化の条件は満たしているのですが、超過利潤はゼロの状態となります。それは、まさに激しい競争の結果です。
このような競争を繰り返しながら、個別商品はその死命を終えたり、また、大幅なモデルチェンジによって、商品の魅力を取り戻して、往時の独占性を取り戻すこともあるでしょう。
数十年以上愛され続けるロングラン商品もありますが、それもよく観察すると、少しづつ改善・改良が加えられていることが分かります。