第13回 日本のICT投資の謎
今回から、何回かにわたって、『情報通信白書』(総務省)の資料やデータをもとに、ICTおよびEビジネス関連のテーマを考察していきます。
その第一回目は、表題にあるように「日本企業のICT投資およびソフトウエア開発の謎」についてです。ただし、今回は、謎の提起のみです。
日本は、かつて、「情報立国」と名乗り、ハードウエアおよびソフトウエアにおいて、米国にはかなわないまでも、その他の国家からは頭一つ抜けている存在でした。
ところが、日本の経済発展が止まる1991年、いわゆるバブル崩壊の年以後、30年近く、その成長は停滞しています。GDPはゆっくり拡大していますが、低成長ではあることは事実です。
欧米からは、少子高齢化などの社会問題も含めて、「日本問題(Japanese Problems)」と呼ばれています。
ここでは、その一角を占める「ICTの日本問題」を考察します。それには2つの大きな謎があります。
その第一は、日本のICT投資に関する問題です。その投資推移は、1995年を100として考えると、米国とフランスは300程度、英国は150程度の成長を示していますが、日本は100前後です。なぜ、主要先進国の中で、ダントツに、日本のICT投資額は、伸び悩んでいるのでしょうか(『令和元年度情報通信白書』(総務省)の資料より)。企業の生産量や生産性等は投資から始まりますので、この理由を明確にする必要があります。
第二の疑問も上記白書のデータを基にしていますが、それを図示したのが下記の図表です。
これをみると、米国のソフトウエアの投資配分は、パッケージ系が29%で、受託開発系が33.8%で、自社開発系が37.2%です。概ねバランスよく投資されていることが分かります。これに対して、日本は、パッケージ系が11.7%で、受託開発系が88.3%となっています。信頼のおける政府の白書なので大きな間違いはないと思われますが、この受託開発の圧倒的な割合の大きさと、自社開発がなしというのはどういうことでしょうか。
日本のICT投資の成長性は、1980年から20世紀末あたりまで、先の主要先進国との違いはあまりなかったのです。ということは、昔から日本のICT投資が少なかったわけではないのです。なぜ、世紀を超えるあたりから、大きく優劣がついたのでしょうか。
もちろん、日本独自の企業環境や企業経営スタイルや企業風土があり、ICT投資の多寡および全投資の中に占める割合は、それぞれ違いがあっていいのですが、その理由ははっきりさせる必要はあるでしょう。しかも、この間、日本の経済が絶好調であるのならば何ら問題はないのですが、先にも述べたように、日本問題と揶揄されるまで落ち込んでいるのは、このICT投資問題とは無縁ではないでしょう。
まずは、この問いから考えていきたいと思います。