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マクロ経済学第87回 アイデアの経済学

 この「アイデアの経済学(Economics of Ideas)」という言葉は、第86回に出てきたジョーンズの著書『経済成長理論入門』の第4章のタイトル名です。

 ジョーンズは、ローマーモデルを説明する前提として、アイデアの重要性や特性や経済における意義などを述べています。

 確かに、現代経済において、アイデアやイノベーションや知識は、経済成長には欠かせないもっとも重要な要因だといっても過言ではないでしょう。

 それを論じる前に、そもそも「アイデア(idea)」とは何かを、辞書で調べてみました。当然、英語なので、英語の辞書でまずは調べました。

 Longmanの辞書『LONGMAN DICTIONARY CONTEMPORARY ENGLISH』によると、「a picture in the mind」、「a plan」、「an opinion」、「a guess」、「understanding」のことであるといいます。これに対して、研究社の『NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY』では、「考え」、「感じ」、「直感」、「見解」、「着想」、「意図」などと出ています。さらに、小学館の『デジタル大辞泉』では、「思いつき」、「新奇な工夫」、「着想」、「観念」などといいます。現代的には、最後の思いつきや新奇な工夫や着想などがもっとも近いように思います。

 さて、ジョーンズは経済学者なので、アイデアは、「生産技術を改善する」といっているように、研究・開発によって創出された「技術(technology)」や「知識(Knowledge)」それ自体か、それの源泉のように捉えているようです。言い換えるとシュンペータのイノベーションに近い概念といってもいいでしょう。

 筆者は、もっと広く捉えた方が、いいのではないかと思いますが、これに関しては、後述します(これが実は決定的に重要な意味をもつと考えますが)。

 ここで、彼は、ローマー(Paul M. Romer)のアイデアと経済成長の関係について、「アイデア」―>「非競合性」―>「収益逓増」―>「不完全競争」という定式化を図ったといいます。

 これは、アイデアの経済学にとって、非常に重要な部分なので、簡潔に解説します。

 まず、アイデアの特性として「非競合性(non-rivalness)」があるといいます。これは、アイデアや知識は、広義の公共財だからです。これに関しては、本コラム・ミクロ経済学の第29回から第35回で議論されていますので、詳しくはそちらをお読みください。かつ、「意図的な研究開発」に伴って生み出されるものなので、「不完全競争(imperfect competition)」でかつ「収穫逓増(increasing return)」になるといいます。完全競争下であれば、長期的均衡においては、超過利潤がゼロとなるからです。理由は、平均費用(AC)と限界費用(MC)が交わる点まで価格が下がるからです。他の言葉で言い換えると、均衡価格は需要と供給で決まり、開発者には価格決定権がないということになるからです(市場価格を所与として受容するといいます)。これでは、研究開発に巨費を投じる開発者は、その資金が回収できなくなり、結果、研究開発が少なくなるか、ゼロになります。そこで、特許権や著作権制度を国家は導入して、開発者・創作者にいわば独占的に利益を確保することが必要であるといいます。確かに、特許権は、その技術に関する独占権といえます。これを言い換えると、「非排除性(non-excludability)」が必要であるということです。これを簡単にいうと、お金を払わない人には使わせないということです。排除できると、開発者(社)には、限界費用の増加は少ないうえに、権利者に生産数(販売数)に応じて巨万の利益がもたらされるので、収穫逓増となるのです。これは、プラットフォームビジネスも同じロジックだといえます。

 これを前提としながらも、アイデアや知識や情報は、「外部性(externality)」があります。この外部性に関しては、本コラム・ミクロ経済学第24回から第28回を参照ください。

 この外部性によって、経済成長が高まるという面も大いにあります。なぜなら、技術や知識が普及することを促すからです。ですからこの外部性は、「スピルオーバー効果(spillover effects)」や「漏出効果」や「拡散効果」ともいいます。

 まとめると、優れたアイデアや技術や知識には、初期費用としての大きな固定費用(Fixed cost)がかかるので、排他的な権利を開発者・研究者に与え、数十年後には、知的財産権を失わせ、公共財化するというのが、現代知的財産権制度の仕組みです。

 ただし、この制度の下では、「勝者が全てを取る(winner-takes-all)」こととなり、不完全競争がさらに進み、寡占や独占となります。すると、社会的余剰(総余剰)は小さくなります。ということは、行き過ぎた不完全競争は、経済成長を鈍化させる可能性も指摘できます。

  総括すると、素晴らしいアイデアや知識を生み出すためには、そのためのインセンティブとしての排他性の確立が必要であるとともに、外部性も発現するように、最適な制度設計と運営が、経済成長の基盤となるといえます。

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