マクロ経済学第7回 相対所得仮説その2
相対所得仮説は、J・デューゼンベリー(James Stemble Duesenberry;1918-2009)が提唱したもので、この相対所得仮説には、主に2つの考え方があることはお話ししました。ただし、消費は所得のみに依存するものではないという意味では相対所得仮説はもっとあります。
前回は、時間的相対所得仮説を説明しましたが、今回は、空間的相対所得仮説をお話しします。
一個人の消費は、限られた所得のなかで、効用を最大化するという合理人仮説を経済学は原則採用しています。しかし、個人の消費は、はたして個人の自由な選択から行われているのでしょうか。財の選択の過程で、他人の影響を受けているとみることは十分に考えられることです。
これが、空間的相対所得仮説です。自分と接触する周囲の人々の消費動向に影響を受けて、知らず知らずのうちに消費を行っているということは現実的な見方です。たとえば、自分が住んでいる地域住民の所有物を見て、また彼らとコミュニケーションすることで、自身の消費が影響を受けることもあるでしょう。また、自分が属している仲間や同僚の消費に影響を受けることもありそうです。たとえば、自分の周囲の人々が有名ブランド品を所有していれば、自身もそのようなモノを購入する可能性は高いでしょう。ことわざでいえば、「朱に交われば、赤くなる」ということです。これは洋の東西を問わないといえます。ということは、人間の普遍的な意志決定のパターンであり、理論化すべきでしょう。
このような効果を、「デモンストレーション効果(demonstration effect)」といいます。
では、これを定式化してみましょう。
E = ΣijCj ・・・・・・・・・①
Ci / E = a + b(Yi / E) ・・・・②
Ci / Yi = b + a(E / Yi) ・・・・③
E:周囲の人々の消費の加重平均値 Ci : ある人の消費
Yi:ある人の所得 ( a b は、定数)
第一式は、周囲の人々の消費に関する加重平均値です。第二式は、左辺が、自身の消費と周囲の人々の消費の比率で、右辺が、自身の所得と周囲の人々の消費の加重平均値との相対比率です。第三式は、第一式の両辺に、Eをかけ、さらに、両辺を、Yiで割ると、こうなります。
ここで、自身の所得が減ると、平均消費性向は高まります。逆に、自身の所得が増加すると、平均消費性向は低下します。さらに、両者ともが上昇すると一定になります。
ここでの重要な意味は、他者の消費の影響要因を加味すると、平均消費性向は、安定するということです。