マクロ経済学第52回 ギフト交換モデル
経済学においては、企業は、予算制約下での利潤の最大化をもとめ、労働者は、家計(所得)制約下で、効用の最大化をもとめると考えます。
この合理人仮説は、あくまでも金銭を通じて得られる利益や効用(満足)です。
しかし、人間は、単なる金銭(貨幣)の多寡ではなく、人間の尊厳や関係性や扱われ方にも大きな価値を見出します。合理的であるということは、そのような人間心理面も包含しているという解釈もあります。
企業にとっても、大変に儲かっている場合は別として、企業の費用のなかで、人件費が大きな割合を占めるとすれば、大きな給料を労働者に払えないかもしれません。しかし、他の企業との比較で、経営者が少しでも高い賃金を払っているとします。
これを知っている労働者は、その少しばかりの賃金の高さであっても、経営者からのギフト(贈り物)であると考えるかもしれません。
それをギフトと捉えた労働者は、そのギフトに応えるために、まじめに働くかもしれません。その結果、企業側の支払うギフト分以上に企業収入が増えれば、企業側も得になります。
このように、企業側のギフトに対して、労働者がそれ以上の成果をもたらせば、双方にとって望ましいことになります。
これが、情報経済学の泰斗・アカロフ(George Akerlof)が唱える「ギフト交換(Gift Exchange)」の理論です。
この表向きでは両者が特になるので、合理的であるともいえますが、背後には、企業者と労働者の心理的要素が背景にあるといえます。
この考え方でも、やはり、賃金の下方硬直性が存在することになります。