第9回 収穫逓増の法則
ICTビジネスは、他の既存のビジネスに対して、急速に拡大・発展しているようにみえます。たしかに、GAFAのような巨大な米国企業は、すべて、ICTビジネスです。日本でも、近年の新規上場企業のなかで、ICT関連ビジネスの比率は高そうです。ただし、私たちは成功している企業しか見ない傾向にあるので、無残に消えていった企業も多数にのぼるでしょう。
ネットビジネスやICT関連ビジネスが、急速に発展する原理の一つに、「収穫逓増の法則」( Law of Increasing Returns)があります。
この概念(用語)は、もともと経済学用語です。これには、2つのものがあり、ひとつは、「生産要素に関する収穫法則」(law of returns to factors of production)であり、いまひとつは、「生産規模に関する収穫法則」(law of returns to scale)です。これに関しては、ミクロ経済学のコラムで詳細に論じますので、ここでは、ネットビジネスの解説に使われる見方を述べます。その場合は、横に時間軸をとり、縦軸に収入(販売高)をとることが普通です。
すると、 時間軸に沿って、最初はあまり規模は大きくないのですが、いわゆる倍々のスピードで、その収入規模を拡大させていきます。指数関数的に収入が増大しますので、あっという間に、上場企業や巨大企業になっていきます。そのような経済・経営法則を、収穫逓増の法則とここでは呼びます。
では、なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか。
先に述べた、「六次のつながり」の例をとって解説してみます。
たとえば、すべての人に50人の友人・知人がいるとします。すると、何回かの隔たりで億単位の人と名目的なつながりができます。下記の式は、5回目のつながりの数を示しています。
N(つながりの人数) = 50×50×50×50×50 = 312,500,000人
となり、3億1250万人となります。
ただし、この計算は、いろいろと割り引いて考えなければなりません。第一に、すべての人が計算通りにつながるというのはまったくのフィクションです。第二に、友人は共通の友人もかなり多いのでダブルカウントされています。第三は、まえにもみたように、友人の極端に少ない人もいるでしょう。ただし、実際の社会人は、友人・知人の数が、50人ではなく、数百人から数万人程度の人もザラにいるので、これよりも大きな数となることもあります(友人とはなにかやどの程度強くつながっているのかは置いておきます)。
ここで話しているのは、あくまでも潜在的かつ可能性としての数です。
ネットビジネスは、F2Pモデルを採用していることが多いのです。F2Pとは、「Free to Pay」の略語ですが、まずは、タダで利用できるというものです。PCやスマホの保有台数は、両方とも合わせると、国内だけでも1億台は軽く超えていますので、きわめて多くの人がアクセスし、利用することは十分に考えられます。その後、何らかの課金へ誘導するのですが、その何%かが有料課金に応じてくれるだけでも、大きな収入となります。さらに、その潜在顧客は、いろいろなサービス購入をしますので、その総収入は大きなものとなります。
まさに、収穫逓増の法則に乗れれば、指数関数的(幾何級数的)に成長することが可能になるのです。
しかし、収入が急成長しても、費用がどうなるかを論じなければ、経営経済分析とは言えません。次回は、費用(コスト)面を考えてみましょう。