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第31回 e-商品論 その3 コトラーの概念2

 前回に引き続き、コトラーの製品概念を考えていきます。

 ここでの製品概念は、「顧客価値(Customer Value)」についてです。製品を顧客の側からみたらどうなるかです。そのときに、顧客がいかなる価値を求めているかです(『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』ピアソン・エデュケーション、2008)。この中には、5つのレベルがあるとコトラーはいいます。(注、下記の用語は、辞典では、第二が「一般製品」と訳され、第四が「拡大製品」と訳されてますがここでは上記書の訳を使っています)

 その第一は、「中核ベネフィット(core benefit)」です。顧客が得る基本的なベネフィットのことです。ここの部分(水準)は、前回の「製品の核」とほぼ同じ内容です。

 第二は、「基本製品(generic product )」です。第一のベネフィットを形のある財やサービスに実体化したものです。基本的ニーズを形作るものといえます。これも前回の「製品の形態」に対応するものです。

 第三は、「期待製品(expected product)」です。顧客が期待する、想定する要件を満たしている財やサービスのことです。ミクロ経済学でいう消費者余剰がゼロか、そのちょっと上のレベルのものです。市場価格は、購入者が得られると思っているくらいか、それ以上の便益や余剰がない場合、購入する必要がないからです。いいかえると、必要条件を満たしているものといえるかもしれません。

 第四は、「膨張製品(augmented product)」です。期待を大きく上回る財のことです。予想を裏切るくらいの価値があれば、顧客は大いに満足します。彼は、先進国における製品競争はこのレベルで起きるといっています。第三の財とパラレルにいえば、競争において十分条件を満たすものといえます。いまはこのような財やサービスはほとんどないような気がします。理由は、粗方、財を消費しているからです。または、SNSなどの発達は、新しいモノでもメディア上で、仮想の消費をしているのかもしれません。言葉を変えると、情報的消費(記号的消費)とでもいえるものです。他の人がどんどんと新規で目新しいモノを紹介するので、自身が出会う前にあらかた分かってしまうのです。コンテンツのネタばれのような状態です。しかし、期待を超える製品は、長く続かないことも多いでしょう。なぜなら、あっという間に、情報が伝わるので、模倣が簡単に起きるからです。つぎつぎに期待以上の価値を創造することはコストと多大な努力が必要なのです。進化し続ける企業、製品であれば、絶対的に勝ち組となれるでしょう。大半の人や企業は適当なところで努力をしなくなるからです。「馬鹿一徹、岩をも通す」ような人や企業に日本人は惚れます。日本は、職人を尊敬する国であり、そのメンタリティーは持ち続けたいと思います。ドイツのクラフトマンシップとも相通ずるものがあるでしょう。

 第五は、「潜在製品(potential product )」です。いまの価値ではなく、未来の価値です。または、将来の展望的期待といってもいいようなものです。筆者はスターウォーズ世代ですが、次回作が常に楽しみでした。実際に封切られて観てみると、期待していた以上でないこともあったような気がしましたが、常に、次回作が楽しみなのです。PCが急激に発展する時期も、新しいPCやOSが楽しみでした。アップル製品がなぜ世界中で愛されているのか、日本製品がウォークマンのときはそうであったのに今はそうでないのかの問題のヒントがここにあるといえます。

 これらを総括しますと、この概念のメルクマールは、「顧客の期待」です。ただし、期待概念は、情報経済論的には、期待値計算のように、合理的確率論的判断をいいますが、ここでは、顧客の心理状態、願望のようなものです。期待させすぎても失望になりますし、期待がなければ、購入してもらえないというセンシティブな問題です。

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追記

 先日、あまり期待もせずに、ある焼き肉店にいきました。ところが、一切れ口に入れたとたん、ここ10年間、食べたことのない美味なるお肉でした。自分がいうのもおかしいですが、食べた1秒後に、目が丸くなったのは久しぶりでした。一緒にいった方もまったく同じ感想をもって、同じ顔でした。こんなにうまい焼き肉屋が近くにあり、しかも休日なのに、満席ではなかったのです。店を出るときに、つい、その店の元おかみさんらしきご高齢の方がいらっしゃいましたので、「おいしくいただきました」とご挨拶して帰途に就きました。

他の肉はどうだろうかという期待感もあり、またのんきにいったところ、予約で一杯で店に入れませんでした。入店を断られたのにもかかわらず、平日に行こうと強く思いました。ここでの言葉でいえば、「膨張製品」をこの店は出していたということです。

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