第74回 国際貿易論のはじめ
今回からは、「国際経済学(international economics)」の一部である「国際貿易論(international trade theory)」を議論していきます。
国際経済学を大きく分けると、財物市場を研究対象とする「国際ミクロ経済学(international micro economics)」と、金融市場を研究対象とする「国際マクロ経済学(international macro economics )」があります。
本コラムは、ミクロ経済学が研究対象なので、国際ミクロ経済学を何回かに分けて話をします。なお、ミクロ経済学の一部として考えていきますので、これからは「国際経済論」と呼びます。さらに、その理論の中心は貿易なので、国際貿易論にフォーカスしていきます。この理論もたくさん存在していますので、ここでは初歩的な内容のみであることをご了解ください。
ミクロ経済学における市場とは、原則的に「国内市場(domestic market)」のことでした。
まったく、他国と貿易をしない国の経済は、「閉鎖経済(closed economy)」といいます。その対語は、「開放経済(open economy)」です。
現実には、完全に閉鎖している経済国家はないと同時に、完全に開放している経済国家もないでしょう。
この場合、「貿易依存度(trade dependence)」という概念で、貿易による自国経済への影響度や開放度を測ります。そのためには、輸出の割合を示す「輸出依存度(export dependence)」と輸入の割合を示す「輸入依存度(import dependence)」も重要なので下記で示します。
輸出額をXとし、輸入額をYとすると、
輸出依存度 = X / GDP(%)
輸入依存度 = Y / GDP(%)
貿易依存度 = (X+Y) /( GDP×2)(%)
という式で計算されます。
ところで、なぜすべての国は貿易をするのでしょうか。
当然ですが、経済学では、そのほうがとくになるからだと考えます。もっというと、双方の国にとってとくになるからです。これを「貿易の利益(gains from international trade )」があるといいます。
それぞれの国は、資源の賦存量、自然条件、国土面積、労働者の数、技術の程度など、かなりの違いがあります。この場合、自国が得意な分野の財を多く生産し、国内で余った部分は輸出をし、逆に、不得意な分野の財は少なく生産し、足りない分を輸入すると、メリットを得ます。これは取引国も同じであり、これによって、「国際分業(international division of labor)」が実現します。
この国際分業と自由貿易は、経済学の父であるA・スミスや、D・リカードによって、理論的に基礎づけられました。
これに対して、自国の貿易に国家が積極的に関与して、国内産業を守ろうとする考え方を「保護貿易(protective trade)」主義といいます。この政策には、他国に対して競争力がない「幼稚産業(infant industry)」を保護する目的や、競争力を失った「停滞産業(stagnant industry )」や「伝統産業(traditional industry)」の保護の目的があります。
自由主義経済は、原則、自由貿易体制をとっているといわれていますが、ちょっと新聞などを読めばわかるように、完全な自由貿易をしている国はないでしょう。EUがその理想の国際経済体制のひとつでしたが、いまは、いろいろな課題が噴出しています。日本では、TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement: 環太平洋パートナーシップ協定)が2018年12月30日に発効されましたが、それは始まったばかりです。また、財の自由取引のみならず、「労働力(人的資本)」や「金融資本」や「情報資本」などの自由化もテーマとなっていますが、その一部しか実現できていません。
とくに、「本源的生産要素(generic factor of production)」である「土地」は絶対に移動不可能ですが、労働力の移動が大きな課題となっています。日本は、人口の減少とともに、生産労働人口が10年以上減少し続けているので、外国人の労働力の移入の緩和が始まりだしました。とはいえ、日本人口は1 億2000万人以上いますので、数十万人規模の外国労働者の国内への移入は、全体的には大きな割合ではないといえますが、様々な異論が出ています。
次回は、貿易の利益をもう少し深く論じていきます。