note

日々の研究を記します。

  1. HOME
  2. ブログ
  3. チカ .K
  4. 総合システム論 第23回 脱分業

総合システム論 第23回 脱分業

 分業は、経済学においては、もっとも古典的なテーマであり、かつ、もっとも今日的なテーマでもあります。 

 「分業(division of labor)」とは、「労働が分割されて専門化すること」であり、その目的は、「分業により労働生産性が向上すること」です(『百科事典マイペディア』)。

 この分業には、さらに、「産業部門別分業」と、「作業別分業」があり、前者は、市場を通じて、後者は、個別企業における生産計画によって営まれると考えます。

 A・スミスは、『国富論(An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations)』(1776)の第一篇、第一章「分業について」、第二章「分業のひきおこす原理」、第三章「分業は市場の大きさに制限される」のなかで、分業を論証しました。

以来、資本主義経済は、分業の正当性を得て、飛躍的に生産性を向上させたのです。

 この本中のたとえとして、ピンの製造があります。たしかに、一人の職人が最初から最後までピンを作る場合と、ピンの製造工程を何段階かに分けて、工程ごとに労働者が作業する場合では、生産性には大きな違いが出るでしょう。これは、先に示した、分業の英語に現れています。英語では、「労働を分割すること」であるといいます。

 しかし、労働者からすると、労働の意欲や働く楽しみややりがいが大きく喪失ことが考えられます。なぜなら、人は、いろいろな機能(能力)を十全に発揮したいと思い、自分自身でモノづくりを完結させたいと思い、さらに、より高度なモノづくりにチャレンジしたいと思うからです。

 来る日も来る日も、同じ作業を延々とすることは、人間にとって、幸福なこととはいえない気がします。もちろん、仕事は、本来、気苦労が絶えないものですが、単純作業は心身の健康にいいとは言えないことも多いでしょう。しかも、機械にとって代わられる可能性も高まっています。ただし、一見、単純にみえる仕事のなかに、奥深い技能や知識が潜んでいることもあるでしょうが、その場合も、やはり、首尾一貫した仕事の方が個々人の創意と工夫が発揮できることが多といえます。

 きわめて高度かつ複雑な仕事では、多くのスペシャリストが参加する場合がほとんどです。この場合は、もともと一人ではできない仕事であるとともに、素晴らしい専門家の仕事の集積でできおり、他者への尊敬心と自負心も満足できます。

 この分業を考える場合、「水平分業(Horizontal Specialization)」と「垂直分業(Vertical Specialization)」という2つのスタイルがあります。

 もともとは、国際分業を考えるためのフレームです。前者は、先進国間の分業をいい、後者は、先進国と発展途上国の分業を表しています。

 このアナロジーから、今後の分業のあり方を考えてみたいと思います。

 

図表は、新しい分業の可能性を仮説として示したものです。

 とくに、古典的なモノづくりではなく、コンテンツや知識を生み出すようなビジネスにおける分業を想定しています。

 まず、ここでは、「コアマネージャー」と一応名付けている人が、まさに、中心人物です。かれは、プロジェクト全体の総括をするとともに、参加者の責任者であり指導者です。そのコアの下に、そのコア業務を、実践可能にする人々がいます。ここはコアマネージャーの直系ですので、垂直分業と考えました。それに対して、水平の黄色のノードは、コアマネージャーとはある意味同格な専門家たちです。その専門家と協働して、ひとつの作品を作り上げていきます。彼らのもとにも何人かの専門家がいるかもしれません。このような場合は、水平分業です。点線で示された逆三角形が組織の規模(または分業規模)を示しています。

 このような組織は、プロジェクトごとに編成され、プロジェクトが終了すると、解散します。プジェクト型組織という呼び名に近いものです。かなりの時間、永続するのは、垂直分業でしょう。ただし、コアが誰になるかは、実績によって抜擢されると考えられます。では、誰が選ぶのかという問題がありますが、それは、情報経済論的発想からすれば、プリンシパルである投資家です。そこで、投資家からすれば、コアマネージャーは、エージェントであり、この組織内では、プリンシパルであるという構造です。

 このプロジェクトがうまくいけば、何度も、再結成され、プロジェクトが続きますが、うまくいかなければ、解散となります。リスクも当然にありますが、専門家集団なので、それぞれの専門家自身も同様なプロジェクトを抱えていれば、リスクは分散できます。

 総括ですが、分業は、労働生産性を高めるために生み出された労働編成様式です。生産性が低い場合は、分業のあり方自体を見直さなければなりません。

 当コラム「第18回 ルーティンワークとICT投資」(Eビジネス、2019・10)でも書きましたように、日本ではやはりルーティンワークが多すぎるのです。これは徹底的に削減する方向にいかなければ生産性は向上しません。片っ端から業務を簡素化するとともに、ICTを利用して自動化を進めます。人は、顧客価値が生み出せる「顧客経験(顧客接点)」的仕事か、プロジェクトを推進して付加価値を生み出す部門に最大限振り分けるべきです。

 無駄が少なく、個々の役割が大きい組織(リーンでタイトな組織)では、組織の活性化がもっとも高く、生産性も高いといえるでしょう。

関連記事