マクロ経済学第90回 今後の展望
日本経済は、この30年間、経済成長の停滞期のなかにあるといってもいいでしょう。
ソローモデルでは、資本のみの投入を続けると、経済成長が鈍化することを「収穫逓減の法則」から導いていました。確かに、先進欧州諸国および日本は、低成長がこの10年間鮮明となっています。米国すら、この間は、低成長です。成長しないという点に、収束しつつあるようにも見えます。
一方、新興国は、この間、軒並み高い成長率を示しました。世界経済全体でみると、いまだに成長を続けているということは事実です。すると、先進各国の経済シェアが落ちているだけだともいえるかもしれません。
他方、内生的経済成長理論は、知識や技術やアイデアが、経済成長のエンジンで、それが増加する限りは、一定のスピードで成長し続けると考えています。
確かに、先進各国も低成長とはいえ、成長は続いているといえます。ただし、数十年の長期で見ると、アイデアを創出する研究開発者はそれ以上の増加率です。その増加割合に比して、経済成長が低いことをどうみるかです。
アイデアに限ってみても、アイデアの重複による非生産性が生まれている面と、アイデアの非競合性によって、正の外部効果が発生し、生産性に寄与している面もあります。このポジティブ効果とネガティブ効果の相殺で、どちらに振れるのかが変わることも考えられます。
ここで、ジョーンズの解釈は、原著が1998年ということもあり、この執筆時になかった新技術にはコメントがありません。
その一つが、インターネットがもたらす広範な社会経済領域への影響です。インターネットによって、情報流通量が爆発的に増加しました。これが、上記の重複効果か拡散効果に変化をもたらしたといえるでしょう。現に、ECビジネスはBtoC部門では、日本でも数%台の成長を維持し続けています。半面、非ECビジネスは、減収を余儀なくされている面もあるかと思います。
その二が、AIです。第三世代AIが日本で本格的に導入されたのは、2018年あたりです。ということは、その効果はまだあまりないといえるかもしれません。しかし、AIは、人間の情報処理を劇的に向上させる可能性があります。人間ができる何百倍何千倍のスピードで知的処理が可能となっている面もあります。たとえば、RPAです。画像認識技術を用いた選別作業もAIが得意とします。ネット内のビッグデータは人の手では追いつけないくらいの量となり、AIがもっぱら処理をして、返答や評価やレコメンドを自動生成しています。研究開発に関しても、AIは、それぞれの最先端分野で、研究者の支援をしています。このことからすると、AKモデルのAは、AIのAであるといえるようになる可能性もあります。インターネットでいえば、AIのIはインターネットのIといえるかもしれません。一言でいえば、「AIモデル」といえます。IoTで無数の情報がコンピュータに伝送され、蓄積され、処理されて新知識、新アイデアを生み出すかもしれません。もしそうだとすると、自然人口の増加(減少)という制約は意味を失うかもしれません。
ローマーモデルも、人口および研究開発者数が大きな意味を持っていたのですが、今後は、一人当たりの資本装備率は、インターネット関連ソフトウエア装備率とAI装備率に置き換えられていくことが予想されます。
追記
今回で、マクロ経済学は終了です。全体で90回となりました。区切りがいい数ということと、4月からは、『AI経済学』というタイトルのコラムを書くために、この辺で終わりたいと思ったのです。AI経済学は、拙著のこれまでの本コラムのすべてを使って、AIおよびインターネット(ICT)の意義、経済成長への寄与、その発展可能性、およびその社会経済的課題の同定と解決についての議論を展開したいと考えています。すなわち、ミクロ経済学、情報経済学、マクロ経済学、行動経済学およびシステム論的知見を総合かつ統合しながら、新しい未来経済を展望したいと思います。お詫びとしては、国際マクロ経済論が書けていない点です。今後、折々に追加して書いていきたいと思います。最後に、2021年新年度から、日本の社会経済が徐々に回復することを願ってやみません。ご講読ありがとうございました。